約 1,077,058 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/986.html
味も見ておく使い魔-2 「おい、起きろ」 ベロ変態のほうの使い魔に起こされる。 「うぅん…もうちょっと寝かせて…」 「隣の部屋からきた赤い髪のメイジはもう食堂に言ったぞ」 その言葉に意識が突然ハッキリし、ガバッと身を起こす。 「キュルケにあったの?何話したのよ!答えなさい!」 「いや、ただの雑談だ。それと『平民を召喚した君』をからかいにこの部屋に来たようだから、丁重にお引取りいただいた」 「あら、そう」 「ところで、部屋にできた穴は一応ふさいでおいたが、あくまで応急処置だからな。 すぐに誰かに頼んで本格的に修理してもらったほうがいいだろう」 辺りを見回す。壁に穴が開いていないし、バラバラにしたはずの家具もある程度元通りになっている。 床もきれいに掃き清められているようだ。 案外根はいい人なのかもしれない。 「ところで、ロハンはどこにいるの?」 「夜が明ける前に学院内を取材しにいったぞ」 取材ィ?ご主人様をほっぽりだして? 「着替えるから部屋を出て」 着替えさせようとも思ったけれど、昨日の「アレ」を思い出してやめておいた。 あんなことする男に裸をみられるのもちょっとね… 着替えながら私は考えた。 洗濯はあとでロハンにさせよう… 『使い魔にさせる仕事リスト』を作っていた昔が懐かしいわ…ほんの1週間前だけど。 着替え終わると、部屋に出てブチャラティに声をかける。 「朝食に行くわよ」 「いや、俺はいい。いつも朝食はカフェオレを飲むだけなんだが、 ここにはコーヒーなんてないだろうからな」 「じゃあ部屋の相談をミス・ロングビルにしてきて。場所は…ここね。 終わったらここの教室に来て」 引き出しから取り出した地図を指し示しながらブチャラティに教える。 「わかった」 彼と別れた後、朝食をとりに食堂に向かった。 アルヴィーズの食堂に一人ではいる。 なんと、そこには食卓を『スケッチ』している男の姿が!これにはルイズも苦笑い。 「すばらしいな、まさに貴族連中にふさわしい食事だ」 「ちょっと、ロハン!あなたの食事はそれよ。 そしてあなたは席じゃなく床で食べること。 平民なんて本来なら食堂内にも入れないのよ?感謝しなさい」 床に置かれた粗末なスープ皿を指差す。そこにはパンすらない。 フフフ、メイジと使い魔の差を思い知るがいいわ! 「おい…あれが平民の一般的な朝食なのか?」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド 威圧感のある声で聞いてくる。ちょっと、いや、かなり怖い。 「つ、使い魔としては一般的。かな?」 私は主人らしく、精一杯の虚勢を張って答える。 「まあ、いいか。この世界の格差のありようがよくわかるな」 一転としてにこやかになるロハン。思ったよりも怒らないわね。 わざと食事を粗末にしたかいがないじゃない。ほっとしたけど。 女王陛下と始祖ブリミルに祈りをささげた後、そろって食事を始める。 「味見しておくか」 ロハンは自分の分のスープを一口だけ試食するように食べると、 後は食堂内を歩き回りひたすらみんなの食事風景をスケッチしていた。 気にしないでたべよう… 「ルイズ、ちょっといいか?」ロハンが話しかけてくる。 「何よ」 「それなんだが、誰も手につけていないようだが、なぜ誰も食べないんだ?」 ロハンがはしばみ草のおひたしを指差して聞いてきた。 トリステイン学院名物で、毎日出てくる物だ。 ただでさえ苦いはしばみ草が、ゆでてあるので苦味がパワーアップ!している。 「あなたの街には、はしばみ草はないの?」 「ああ、今日初めて知ることになるな」 イィーーこと思いついた! 「私のおひたしならいくらでも食べていいわよ」 「じゃあ一口もらおう……ブフッ!ゴホッ!ゴホホッ!」 (くらえ!半径30センチ!はしばみ草スプラッシュ!) ロハンは、ベンキをなめたことをゴマかすかのように咳き込んでいる。 ヤッター! 心の中で“ザマミロ&スカッとサワヤカ”の笑いが出てしょうがねーわよッ! 散々わたしに恥をかかせやがって! 「厨房で食った、冷やす前のやつはそれなりにイケたのにな」 「「な、なんだってー!!!」」 なぜかキュルケの隣にいた青い髪の子とハモッた。 「ちょっと、それ、どういうことよ!」 「言い忘れていたが、僕は今朝厨房の取材をしていたんだ。 そこの責任者はマルトー親父というんだが、そいつと気があってね。 出来立てアツアツ!の朝食をいろいろと試食させてもらったんだ。 だから今僕は満腹状態なんだよ」 「ご主人様になんの断りもなしにそんなことがゆるされるとおもっているの!?」 「気にするな。ついでだから言っておくが、ぼくはご飯については賄いを食べさせてもらう約束をしたから、 今度から僕の分の食事は用意しなくていいよ。 いやよかったねェ。僕は満腹になるし、君は使い魔の食事を気にすることもなくなる。 両方ハッピー!な状況じゃないか」 なんてやつなの! 「そんなことよりも謝ることがある。マジにスマない。悪気はないんだ」 「な、何よ」 「君は、朝食をまだ半分しか食べてないだろう? でも、その…何というか、それ」 ロハンに指を指されて、自分の分の朝食を見ると、 ロハンが作ったはしばみ草の『ふりかけ』が盛大にかかっていた。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「ねえ、ロハン。あなた『オラオラ』と『無駄無駄』どっちがいい?」 To Be Continued... 戻る 味も見ておく使い魔-幕間に戻る 味も見ておく使い魔-3に続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2208.html
トリスタニアの街から離れた、ある森の一角に王立魔法研究所の第二研究塔はあった。 敷地は高い塀で囲まれていて、外からはおり中を見ることはできないようになっており、草原になっている広場の広さは、魔法球技『クィディッチ』ができるほどある。 その敷地内にて、ルイズの姉であるエレオノールはとある実験を行っていた。 研究員らしい白衣を着た、ややぽっちゃりとした体形の女性が、同じ格好のエレオノールに間延びした声を投げかける。 「エレオノール様ぁ。準備できましたよぉ~」 「いいわ、でも『そろそろ』ね。作業員に安全確保を徹底なさい」 エレオノールは考え事をしながら、彼女の近くにすえつけられている大砲を見ていた。 「はぁ~い。ではぁ、ごじゅうさんぱつめ、いきますぅ~」 あの助手有能なんだけども、やや間が抜けてるのよね。 あのピンクの髪が、どことなくカトレアを連想させるし。 そう思っているエレオノールの体を、大砲の轟音が包み込んだ。 かなりの時間、エレオノールの視界が黒煙によって完全にさえぎられる。 それにもめげずに、大砲の方向を注視し続けた彼女は、発射煙の合間に発射実験の結果を見ることができた。 大砲は砲身がささらのように開いている。 砲身の命数が尽きたのだ。 「だめね、これじゃ。とても実用的とはいえないわ」 ため息をつくエレオノールに、助手がのんびりとした声をかける。 「ですからぁ~。箍をはめて砲身を補強しましょうよぉ~」 「だめよ!!! それでは作業工程が三割増しになるじゃない。『錬金』工法のメリットがなくなるわ!」 エレオノールはため息をついた。 まったく、この子は。今回の研究の本質をわかっているのかしら? エレオノールはそう思いながらも、助手を変えようという発想にはならなかった。 なぜなら、エレオノールの癇癪を器用に受け流すことができるのは、王立アカデミーでは彼女しかいないからだ。 エレオノールたちは、現在王立造船所に出向し、新しい砲の製造法を研究していた。 それは木材を大砲の形にくりぬき、それに高度な『錬金』の魔法をかけることで、安価にかつ大量に大砲を量産する方法である。 いまだ試験段階だが、もしこの生産方式が実用化されれば、従来のいわゆる『溶接工法』の半分程度の手間で生産することが可能とエレオノールは思っている。 通常『錬金』の魔法は、エレオノール達王立アカデミーの研究員の力を借りずとも簡単に唱えることが可能だ。 だが、大砲に使われるような金属には、細かい成分調整が必要である。 しかも、トリステインは、この新式の大砲に新しい合金を材料にしようと考えていた。 そのような合金を練成するならば、アカデミーが研究中の、新式の『錬金』魔法が必要なのだ。 エレオノールたちは、そのために大砲の砲身に『錬金』魔法をかけていた。 「やっぱり粘度が足りないわね……もう少し亜鉛の比率を上げてみるか……」 そうつぶやき、考え込むそぶりを見せるエレオノールの姿には鬼気迫るものがあった。 今のエレオノールに声をかけようと思うものは、トリステインの中では数少ない。 その数少ない人間の中に、ルイズはいた。 「シエスタに会いたい研究員って、姉さまのことだったの?」 ルイズが、ブチャラティと、シエスタとともに衛兵に案内されながら歩いてきたのだ。 「あら、あなたがミス・シエスタ?」助手を帰らせたエレオノールが言った。 「そんな、高名な貴族様にミスだなんて。私のことは、ただシエスタと呼んでください」 「あのねえ、あなたはシュバリエになったんだから、一応はあなたも貴族なのよ。しゃきっとしなさい!」 「は、はい!」シエスタは体をびくりと震わせる。 「ルイズ、あんたの隣にいる男は誰?」 「オレはルイズに召喚された、彼女の使い魔だ」ブチャラティがいった。 「ふ~ん」 エレオノールはブチャラティを頭からつめの先までジロジロトねめつけた。 「まさか、ちびルイズの恋人ってわけじゃないでしょうね」 「違うわ!」ルイズが言った。 「まあ、いいわ。ところでルイズ、あなたなんでここに来たの?『鉄竜』の使い手はミス・シエスタのはずよ」 そういわれたルイズは体を硬直させる。出す声も心なしかこわばっている。 「だって、姉さま。シエスタは私の知り合いですし……」 ルイズは次の言葉を言いかけて、アンリエッタとの約束を思い出した。 だが、その思考を奪うかのように、エレオノールが詰問する。 「まさか……鉄竜と同時に発見された『虚無の使い手』って……アンタ?」 「……はい」 「嘘でしょ?」今度はエレオノールが絶句する番であった。 そのスキに乗じて、ルイズが話す。 「だって、アカデミーの人間が話を聞きたいなんて。もしシエスタが解剖されるようなことがあれば、知り合いの私が守ってやらないと……」 「ひえぇぇ」シエスタがルイズの服のすそをつまんでうずくまった。腰が抜けたのだ。 その様子を見て、エレオノールが顔をしかめた。 「あのね……アカデミーはそんなことしないわよ。少なくとも今は」 「だって、うわさがあるもの。実験小隊なんてもの作って、町をそっくり焼いたとか」 「まあ、リッシュモン殿が長であった先王の時代はいろいろやってたみたいだけどね。今はこじんまりとしたものよ。まあ、せいぜい『幻の第四課が始祖ブリミルの遺体を解読している』といううわさがある程度ね」 ルイズとシエスタは顔を見あわせた。安堵の表情だ。 「たとえば私の第二課はね、ゲルマニアから伝わった『科学的研究法』を用いて、基礎の魔法の法則を再構築しているのよ」 ルイズとシエスタは再度顔を見あわせた。困惑している。 その様子をみたエレオノールは、ルイズに向かって言った。 「ルイズ、今学院で受けている魔法の授業は、古文書や始祖ブリミルの魔法書を解読しているような形態でしょ?」 「はい、姉さま」 「それは、昔の人が経験したことをそっくり真似ているだけなの。それを、私たちは経験や観察、実験を通して一般的な経験則を打ちたてて、新たな『理論』として体系付けているのよ」 「そうなんですか……」 ルイズはエレオノールの言っていることがいまいちわからない。 「そうよ。ゲルマニアの研究書には、『エネルギー保存の法則』なんて怪しげなモノもあるけど。研究の手法そのものは正しいわ。研究の蓄積を進めていけば、将来新しい魔法を開拓することも夢ではないわね」 エレオノールの話は続く。 「ルイズ。うちの領地の農場では、春の麦植えの季節に母様が地鎮の儀式を行うでしょう」 「はい」 「ヴァリエール家は領地が広いし、母様は風系統だから、うちでやる儀式はほんの形式的なものだけれど、これが領地が小さめの、たとえばグラモン家なんかの土系統の貴族だと、家伝の錬金魔法をかけて、農地の活性化を図るのよ」 エレオノールの目がどんどん危なくなっていく。もはや彼女にはルイズたちは眼中にない。 「そのような口伝や家伝に頼っていたため、トリステインの応用的な魔法技術は家系ごとにばらばら。ひどいものよ。それを収集、実験して統一性のある高度な魔法体系を構築することがアカデミーにとって、いいえ国家にとって急務なのよ!」 「すごいですね、ルイズさんのお姉さんって」 シエスタは驚嘆の声を上げる。 それを聞いたルイズは、 「すごいでしょ。これくらいなんか、ヴァリエール家の人間なんかへっちゃら何だから」 無駄に、自分に自信を持ったようにエレオノールには見えた。 だからエレオノールは、 「なに言ってるの、ちびルイズ! あんたの功績じゃないでしょ!」 思いっきり右頬をつねってやった。 「いひゃひゃひゃ……ごめんなひゃい」 「ところで、ちびルイズ。あなた虚無の魔法に目覚めたって言うけど、どんなことができるようになったの?ま、どうせちびルイズのことだし、タルブの村で見せたような、失敗魔法の拡大版くらいのものでしょうけど」 ルイズの心は激しく傷ついた。 「ちがうもん!ちゃんとすっごい魔法が使えるようになったもん!」 「そこは『違うんです』でしょ!」 「いひゃい!」 ルイズの左頬は真っ赤になるまでつねられた。 「で、具体的にどんなことができるわけ?ここでやって見せなさい」 だが、ルイズは応えることができない。 「どうしたのよ?」 「えと、虚無の魔法は、精神力をすごく使うの。で、今は精神力が十分たまっていなくて……」 「あきれた。じゃあ、あなたは当分『ゼロ』のままね」 「まて、ルイズはこれでもがんばっているんだ」ブチャラティが口を挟む。 「あんた平民? なら黙っていなさい!」 エレオノールの高飛車な剣幕にしかし、ルイズの使い魔はたじろぐ様子を見せない。 「断る。俺は相手が貴族だろうが王族だろうが、正しいと思ったことを行うクチなんでね」 「ブチャラティ……といったかしら?あなたには使い魔としての『教育』が必要のようね……」エレオノールの口調はあくまで冷静のようだが。 ルイズにはわかった。 ――エレオノール姉さまは激しく怒っているわ! その証拠に、ねえさまの眼輪筋がピクピクとうごめいてるもの! 「ルイズ、あなたの使い魔、しばらく借りるわね……ミス・シエスタ。あなたの相手は明日になりそうだわ。しばらく待っていて頂戴」 「わ、わかりました」とはシエスタの弁。 ルイズは、自分の使い魔の危機を肌で感じ取った! 「そういえば、ブチャラティは暇つぶしで忙しいんだったわ! ねえさま、そういうわけだから」ルイズはとっさの一言は、 「言ってることが矛盾してるぜ、ルイズ」反対にブチャラティに慰められた。 「いい度胸じゃない、ブチャラティとやら。このアカデミーの中庭にはどういうわけか教練場があってね、そこまで来なさい」エレオノールはやけにさわやかな笑みを浮かべて、ブチャラティの返事を待たず、一人去っていったのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― その日、トリスタニア王宮の外交の間にて、アンリエッタは一人の黒髪の青年に謁見を賜っていた。 ロマリア皇国からの使者を名乗る男は、物怖じすることもなくアンリエッタにの眼前に跪いていた。 彼はなぜか、右手にだけ白い手袋をしている。 「どうしても、アルビオン帝国に対して異端宣告を出すことはできないというのですか?」 アンリエッタは詰問した。詰問というよりは、憤怒の声であった。 「まことに申し訳ない。彼らは、始祖の教えに関しては偏執的ともいえるほど教義に従っておりますゆえ」 ロマリアからやってきた、元司祭と名乗る黒髪の男は、まるで悪びれた様子を見せず、アンリエッタに再度頭を下げた。 「始祖ブリミルの末裔である、アルビオン王家の血族を根絶やしにしてもですか?」 「それに関しては、私個人としてはまったく姫様に同感なのですが。アルビオン王家はかつて教会に税をかけようとしたことがありまして。考えようによっては、『始祖の教えを破ったアルビオン王家を、貴族派が忠罰した』といえなくもないのでございます」 「何ですって!」 そう叫んだアンリエッタをさえぎるように、 「待ちなさい」 マザリーニが発言した。 明らかに無礼だが、この際仕方がない。 「それは、ロマリア皇国の考えですかな?」 「いえ……とある枢機卿の個人的な発言にございます」 「なるほどな。では、教皇聖下はなんと?」 「それについてはご容赦を。ですが、我々、ロマリア人の義勇兵を送ってきた事実からご推察ください」 「了承した。姫様、ロマリアは我々の味方をしてくれそうですな。今のところは」 マザリーニはそういいながら、アンリエッタの顔を盗み見て、表情を確認した。 どうやら、アンリエッタは落ち着きを取り戻したようだ。 「わかりました。トリステイン王国は、あなた方義勇軍を快く受け入れます。別命あるまでトリスタニアの街を楽しんでいってくださいまし」 アンリエッタはそういうと、マザリーニに頷いた。 マザリーニはロマリアの男をつれ、彼の宿舎へと案内していった。 アンリエッタはため息をつくと、自分の執務室へと向かっていった。 その日のアンリエッタの朝見はこれを最後に終了したのだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― アンリエッタの部屋には、すでに人物がいた。 「失礼しております」女の声がアンリエッタの執務室に響く。 「何用ですか、アニエス」 アンリエッタにそう呼ばれた女性は、近衛騎士隊の制服の上に、シュバリエの証であるマントを羽織っていた。 彼女が金髪を短く切り上げているのは、その腰に下げた剣を振りやすくするためか。 「女王閣下、アルビオンに放っておいた『草』から、不穏な報告がございます」 「どのような報告でしょうか?」 アンリエッタは机に向かいながら質問した。彼女の視線の先には大量の命令書がある。 「不確実な情報ですが、アルビオンが、トリステイン魔法学院に奇襲をかけ、生徒を人質にする計画があるとか」 アンリエッタはわずかに表情を曇らせた。 「そうですか……彼らも必死なんでしょうね」 「何か対策をお考えですか?」 「アニエス、あなたはどう考えますか?」 そういわれた女剣士は腕を組み、しばし考え込んだ。 そう、この人物は杖を持っていない。 メイジではないのだ。 「私としては、策が『何でもあり』であるならば、この問題を捨て置くべき、と思います」 「どうしてかしら?」 「はい。もし、この計画が真実だとするならば、アルビオンは重大な過失を負うことになります。むしろ、トリステイン王国政府としては、彼らの奇襲が成功し、なおかつ人質を二、三人殺してくれればなおよろしい。トリステインがアルビオンと比べて道義的な国家となり、国際社会において、社会的弱者としての特権を存分に振るうことができます」 「そして、戦争に消極的なトリステイン貴族たちを一致団結させることができる。違いますか?」 「おっしゃるとおりです」 アニエスは自分の凄惨な笑顔をさわやかに王女に向けた。 元が平民である彼女にとって、貴族の師弟は平民の子供となんら変わりはない。 彼女にとっては、生徒たちは絶対的に守るべき対象ではないのだった。 だが、他のトリステイン貴族からしてみれば、到底受け入れられない思想ではあった。 アンリエッタは少し考え事をした後、フフフ、と笑った。 その笑い方にはどこかしら陰がある。 「私もまだまだ甘いわね。その案は却下します。アニエス、あなたはトリステイン魔法学院に赴きなさい。学生に戦時訓練を施すことを名目とします。十分な銃士隊を連れて行きなさい」 「われわれに警備をおこなわせる、と?」 「ええ。ですが、くれぐれも生徒や教員に、真の目的を悟られぬようお願いします」 「了解いたしました。ですが、その前にするべきことがあります」 アニエスはやや引き攣れた敬礼を返し命令に応えた。 「何か?」アンリエッタは自分に問うた。出した命令に漏れがあったのだろうか? 「はい、例のウェールズ公の件で捜索に進展がありました」 その言葉を聴いたアンリエッタの体がこわばる。 彼女にとって、ウェールズの単語は、今では半ばトラウマになっていた。 だが、今の彼女は女王である。そのような感傷は許されない。 「私がウェールズ様……あの死体と一緒にこの城を抜け出したとき、衛兵とは一人も顔を合わせませんでした。あの時に、衛兵に指示をだせた人物は多くありません」 やはりあの男か……アンリエッタは歯噛みした。先王の時代から使えていたあの男は、いつからこの国を裏切っていたのでしょうか? 父上が死んでから? 父上が国王になってから? それとも、最初から? アンリエッタの思考を打ち切るように、アニエスの小声がアンリエッタの鼓膜を振動させる。 「はい、ですが、その当時命令を受けたと思われる衛兵達は、当日ウェールズ公を追いかけ、みな死にました。決定的な証拠はありません」 「ならば、こちらから『仕掛ける』必要がありますね」アンリエッタは言った。 アニエス・シュバリエ・ド・ミランは一人、用命を果たすために王宮の外へと、とトリスタニア王宮の回廊を歩いていた。 彼女の帯びた長剣が、カチャカチャと不快に高い金属音を生じさせている。 そのリズムに合わせるように、近くにいる貴族たちのヒソヒソ声が、アニエスに聞こえよがしに響き渡る。 「剣などと……無粋よのう」 「所詮あやつは粉引き風情(ラ・ミラン)ですからなあ」不快な笑い声が、空気の振動となってアニエスの周りをおおう。 だが、彼女にとってはいつものこと。気にせずに通り過ぎる。 いや、通り過ぎようとした。 この日に限っては、アニエスは自分に対する嫌味の言葉に対し、硬い表情をした。 彼女の前方、陰口をたたく貴族たちの一団に、『ある人物』がいたのだ。 ――リッシュモン高等法院長―― アニエスは、先日『草』が捕らえたばかりの情報を瞬時に脳裏に引き出した。 ――こいつが、国家の『裏切り者』―― アニエスはその中年男性を凝視した。 ――証拠はないが、この男でしかありえない―― リッシュモンが、アニエスの視線に気づく。 ――そして、この男こそが、私の『仇』―― 「やあ、粉引き娘殿。今日も姫様のご機嫌とりで忙しそうですなあ」 ――そして、おそらく『ダングルテールの虐殺』の張本人―― 「アンリエッタ陛下はすでに女王だ。姫様ではない」 「そうでしたな、私としたことが。先王や皇后陛下が政をつかさどっていたのであれば、魔法の使えない連中がこの王宮を我が物顔で歩き回る光景を許すはずがなかろうものですなあ」 「それ以上の暴言は王室への侮辱と受け取ります」 リッシュモンはおどけた様な笑みを浮かべる。 「おお、怖い。私はこれでも由緒ある貴族の端くれ。正当な王室に歯向かうなどとは考えたこともない。それにしても、その物言い。それではお前が『アンリエッタ陛下の権力を私の物としている』うわさされても、仕方のないことですな」 アニエスはリッシュモンの目をますますにらみつけた。 それを意に介さず、リッシュモンはアニエスに話し続ける。 「先王の時代はよかった……平民は働き、貴族は戦う。それぞれが己の本分を全うし、お互いに相手の領分を侵そうなどという不遜な輩は現れなかった」 「時代は変わるものです」 「そうだな。だが、よいものは時代が変わっても本質は変化せぬものとわしは思う」 「近頃の『変化』が気に入らぬ様子ですな」 「ふん。まったく最近の平民共は。他人に管理育成されなければ、無軌道に自分のやりたい放題に生きて、抑揚というものを知らぬ。あのダングルテールの村人共も、そのように考えもなしに『実践教義』などたわけた代物に飛びつきおって。貴族と平民は始祖の前において平等だと?」 アニエスの目が光った。 「ダングルテールの虐殺は、あなたが立件したことでしたな」 「何を言っておる。アレはただの鎮圧行動だ。それにあやつらは国家の転覆を図っていたのだ。奴等には当然の結末だよ」 「なるほど。反逆罪には死を与えてもよい、か」 「どうした、アニエス。何か含むことあるようだな?」 ――私はお前を惨殺できる、というのだな―― 「いえ、あなたの方法には賛同できかねますが、結論にはまったくの同意見です」 彼女はそう答え、一礼をして王宮を出て行った。 アニエスの思わぬ言葉と礼儀正しさに、リッシュモンはあっけにとられた。 「そ、そうか」彼はアニエスの背中にそう答えたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 平穏だったトリステイン魔法学院に、騒音を持ち込んだのはやはりアニエスだった。 彼女は目の前の男に向かって節度ある話し方をしていた。 目の前の男、岸辺露伴は、 「つまり、僕とブチャラティにアンリエッタを『かくまえ』っつーことか?」 ぶっちゃけ、やる気が見えない。 いま、アニエスは露伴と二人っきりで話をつけている。アニエスとて、ブチャラティと直接交渉したいのであるが、ブチャラティは、ルイズやシエスタとともにアカデミーにいて連絡がつかないのだった。 「まあ、無駄な修飾を省けばそうなるな」 「う~ん。僕はめんどくさいなあ~」 「その後の大捕物を観察できるぞ」 「なら、仕方がない、手伝ってやるか。感謝しろよ、アニエス」 「相応の働きをすれば、それなりの感謝と報酬は保障してやろう」 アニエスは計画の仔細を露伴に打ち明けた。 「ふん。きにいらないな、その方法は。やり口が汚くて読者に好かれない」 「何とでも言うがいい」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 三日後、トリステインの安宿にて。 「よろしくお願いいたします」アンリエッタは町娘に扮した格好で露伴と話していた。 「今さらだが、筋書きを確認しておくぞ?」露伴がいう。 アンリエッタがウェールズ公と逃げ出した日のことだ。 彼女たちが城から出て行ったとき、警備の人間とは出会わなかった。 証拠はないが、そのように当日の警備を変えた人間がいたのだ。 つまるところ、トリステイン王宮の内部に『レコン・キスタ』の人間がいる、ということである。 今回、アンリエッタがアニエスの手引きで王宮からひそかに外出し、人目を忍んで露伴と会っているのはわけがある。 「で、もう一度あんたが『失踪』すれば、トリステインの『裏切り者』は、アルビオンの仕業だと思い込む」露伴は部屋の外を伺いながら言った。 「ええ、そうすれば、『裏切り者』は、今回の『失踪』を、アルビオン側に問い合わせるでしょう。スパイの連絡網を使って」 「そして、その『連絡者』が、この宿のどこかに潜んでいるってわけか……」 「ええ、そろそろアニエスがつれてくる筈なのですけれど……」 そう話しているところ、宿の廊下をどやどやと大人数が走り回っている。 さすがは安宿、床の軋み声がものすごい。 走行しているうちに、二人のいる部屋の扉が、乱暴にノックされた。 「おい! あけろ! 俺たちは女王様をさらった人間を探しているものだ!」 アンリエッタは少しだけびくついたが、それも一瞬のこと。落ち着いて露伴に頷いた。 露伴は無言で頷き返すと、おもむろにドアを開ける。 『ヘブンズ・ドアー!』 一瞬の間のあと、廊下に立っていたマンティコア隊の隊員と見られる男はあっけに取られた様子で露伴を見つめていた。 「お前はここではアンリエッタを見つけてはいない。そうだな?」 「あ、ああ……よし、次を探すぞ!」その男は半分ほうけた風になりながらも、見つかるはずのない女性を捜し求めて去っていった。 入れ替わりに、若い娘が大きな麻袋を抱えて部屋の中に入ってきた。 「待たせたな、露伴」アニエスだった。 彼女は肩に抱えていた麻袋を無遠慮に床に落とす。 「ぐぇ!」中から苦悶の声がする。 アニエスが袋の口をあけると、中には若い男が猿轡をされた状態で入っていた。 彼の目は敵対的な目つきをしている。 「なるほど、結構根性がありそうだ。簡単には口を割りそうもないな」露伴が男の様子をじろじろと見ながら言う。 「当たり前だ。われわれは貴族だ! 貴様らなんぞに!」猿轡をはずされた男は開口一番、そう言い放った。 だが、 「関係ないね」露伴はそう言い放つと、 『ヘブンズ・ドアー』問答無用に彼の頭の中を覗き込むのであった。 「どうですか、露伴さん?」 「アタリだ。やはり『裏切り者』はリッシュモンだ。それにしてもすごいな。やつはアルビオンから一億と四十万エキューの賄賂をもらっているぞ」 アンリエッタは嘆息した。が、彼女は気丈にも気を取り直した。 「ならば、彼の元に向かいましょう、露伴さん」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― タニアリージュ・ロワイヤル座の劇場の中に、リッシュモン卿は一人入っていった。 開幕が真近だというのに、ほとんど観客がいない。 と、いうのも、役者の腕が悪すぎて批評家たちに酷評され、人気がまったくないのであった。そのようなくだらない内容にもかかわらず、彼は毎週のようにこの劇場に来ていた。そして予約していたらしき席にすわり、ひたすら開演のときを待っていた。 次に入ってきたのは岸辺露伴である。彼はリッシュモンに気づかれることのないように、席の最奥に、一人ひっそりと陣取ったのであった。 開演してしばらくたった時のこと、リッシュモンの隣の空席に、フードをかぶった少女が座り込んだ。 「失礼だが、そこは私の待ち人が来るのだ」リッシュモンは言った。 だが、少女は席を立つ様子を見せず、フードを跳ね除けた。 果たしてそれはアンリエッタであった。 「アンリエッタ様ではないですか。あなたは失踪したのではなかったのですか?」 「私がアルビオンの手勢に攫われたのがうそなのが、それほどまでに悪い知らせのようですわね」 「なにをおっしゃる。ご無事で何より」 「お互い、無駄なごまかしは無しにいたしましょう。ここであなたと会うはずのアルビオン人はすでに捕縛してあります。あなたが裏切っていたことはもうすでに自明の事ですのよ」 「ほう」リッシュモンは、興味を惹かれた風に頷いた。まったく驚いたそぶりを見せない。 「クロムウェル殿は、私をアルビオンまで連れて行きたいようでしたからね。そのうえ、苦労して作ったトリステインのスパイ網が、あなたの逮捕によって一網打尽になるのですから。あなたの真の主にとって、とても悪い知らせになりそうですわね」 「まあ、このままではそうですな。ですが、私がこのままあなたをアルビオンに連れてゆけばよいまでのこと。そうすれば、『Oh、グッドニュース!』に早変わり、というわけですな」リッシュモンはそういうと、やおら立ち上がり、ぱちんと指を鳴らした。 次の瞬間、舞台の上に上がっていた役者たちが、やおら懐に入れていたらしき杖を取り出し、その先をアンリエッタに向けた。 「さて、私と一緒にアルビオンまでご足労願いましょうか」 わけもわからずに逃げ惑う少数の観客の中、アンリエッタはリッシュモンにつれられえて舞台の中央に引きずり出された。アンリエッタをスポットライトの光が襲う。 「役者はみなアルビオンの手勢でしたのね。どおりで、演技が致命的なまでに下手でしたわ」アンリエッタが淡々と言う。 「そのとおり。ですが、舞台装置は逸品ですぞ。いくら王族といえども、これだけのメイジを相手にはできないでしょう」 「そうね、『私一人』では、この窮状をどうにもできないでしょうね……」 「私は芸術を監督する高等法院官。あなたのお美しい顔を無碍に傷つけたくはない。さ、おとなしくしていただきましょうか」 「いやだ、といったら?」 「それは、私の本意ではないのですが、無理やりにでも連れて行きます。どうします? ここにはあなたの味方はいない。銃士隊の一人すらいやしない。絶対絶命というやつですな。それとも、先ほどから席の奥にいる、あの奇妙な男が何かするのですかな?」 「いや、僕はもう何もしないさ」露伴はつぶやいたが、誰の耳にも入らなかった。 その代わりに、アンリエッタの声が響き渡る。 「ならば仕方がありませんわ。あなた方に同情いたしますわ。情けはかけませんが」 「なにを言っておられる?」 「おいでなさい! 私の『使い魔』!」 次の瞬間、アンリエッタの隣に、醜悪な紫色の人影が出現した。 「なんだ、これは――ぐぁあ!」 アンリエッタのすぐ隣にたっていた、元役者のメイジが昏倒した。泡を吹いている。 それを皮切りに、次々に、舞台の上に立つものが倒れていく。 みな、無残に皮膚が溶け出し、苦悶の表情をかもし出している。 「うばしゃあぁぁぁ!!!!」 アンリエッタのそばに立つ人影は、涎をたらしながらあたりに向かって霧のようなものを出している。 「なんだッ、これはッ!」 リッシュモンはそう叫んだ。彼の脳裏は、現在起こっている状況を把握することを拒否した。 アンリエッタは、狂信の信徒が異端者を見る目つきでリッシュモンを見た。 「私の使い魔、『パープル・ヘイズ』。性格は凶暴ですが、慣れるとかわいらしいものですわ」 アンリエッタはそういうと、自分のハンケチを取り出し、愛おしそうにパープル・へイズの涎を拭いてやった。そして、両手でパープル・へイズの顔を覆うように優しくなでた。 「ふふふ……私のパープル・ヘイズ。お利口さんね」 「ぐぁふぅッ!」パープルヘイズは、主人によくなついたプードル犬のような目つきでアンリエッタを見つめている。 時が時でなければ、よい主人とよくなついたペット、といえようもなくはなかった。だが。 「ば、化け物めッ――」リッシュモンはうめいた。 アンリエッタがパープル・ヘイズと耽美な時を過ごしている間にも、彼の手勢は次々に惨殺されているのだ。 「さて、今生の覚悟は御済みになって?」アンリエッタが聞く。 その傍らには戦意十分のパープル・へイズ。 気がつけば、舞台の上で生きている人間は、アンリエッタとリッシュモンだけになっていた。 リッシュモンは、引きつった笑顔を隠すことができない。 人間がおびえた時の、恐怖の笑いだ。 だが、 「まだまだですな」彼はそういい、床を強く踏みしめた。 次の瞬間、彼の足元に穴が開き、彼の姿を飲み込んでいった。 その部分は、舞台のせり担っていたようである。 リッシュモンは逃がした。だが、アンリエッタはまったくあせる様子を見せない。 「アニエス、後は頼みましたよ……」 彼女はそういったあと、パープル・ヘイズを見えなくしたのだった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あのアマ、とんでもない隠し玉をもっていたな……」 リッシュモンはそういいながら、暗がりの中、トリステインの下水をたどるように歩いていた。その行く手に立つ影がひとつ、 「ここまでだ、リッシュモン。お前の悪事も、この薄汚い溝で清算する日が来たようだな」 アニエスであった。 だが、リッシュモンはアニエスの言葉に動じる様子はない。 「人は誰でも『救い』が必要だ……」 彼は呟いた。 「わかるか、この意味が……」 「何を言っている?」 「私はただ金や地位がほしくて高等法院という地位にまで上り詰めたのではない」 「お前が無辜の平民を奴隷のように扱いたいたかったのか?だがそれも今日でおしまいだ」 リッシュモンは頭を振る。 「アニエス。お前は何もわかっちゃいない。」彼は不敵に笑う。 「この世には二種類の人間が存在する。いいか、『二種類』だ。男女の違いでは断じてないぞ? それはな、『支配されるもの』と『支配するもの』だ。 陳腐な言い草のようだが……この世には、与えられた自由をもてあましてしまう人種が存在するのだ」 「何が言いたい!」 「つまり、アニエス。お前のような、魔法の使えない、この世では暴力でしか立身出世できない人種のことだ。 知性が暴力に勝るように、アニエェス! お前はわし達、真の貴族にとって単なるナイフにしか過ぎんのだ!」 「ふざけるな! 私は人間だ! 自由意志を持つ、お前たちと同じ人間だ!」 「違うな。私は始祖ブリミルの遺体に選ばれたのだ! 今! 証拠を見せよう!」 リッシュモンは懐から何か長細いものを見せた。 「何だッ――それは、リッシュモン!」 「今こそ、『始祖ブリミルの脊椎』よ!われを導き給え!」 リッシュモンの体が鈍く光る。 それと同時に、あたりに夕日の光が充満していった。 一瞬の間のあと、アニエスは気づいた。 これは……いや、ここは…… 先ほどまでいたはずの下水の通路とは、あまりにも空気が違いすぎる。 ダングルテール? いや、それよりも、リッシュモンは? アニエスの背後で、リッシュモンの声がする。 「いやはや、お前まで始祖の恩恵を受けるとはな……ちょっとした計算外だ……」 「リッシュモン。これが、この瞬間移動がお前の切り札か?」 「そうだ、いや、『そうだった』。やはり私は運がいい。転移先がここだとは。私は第二の切り札が使えるようになった! みよッ! これが、私の最後の切り札だッ!」 リッシュモンは懐から銀色の円盤を取り出し、それをためらいもなく頭に差し込んだッ! 次の瞬間、信じられない光景がダングルテールの町跡に繰り広げられた。 燃え盛る火、火、業火。 逃げ惑う人、焼かれる人。それに向かって無心に杖を向けるメイジの一団。 突如出現した人々は、どの人間の表情もうつろだった。 アニエスが戸惑っている間にリッシュモンはメイジの一団にまぎれていった。 リッシュモンの声が響き渡る。 「どうだ、わしの切り札『アンダーワールド』は。脊椎で転移した場所がここでよかった。ここでは、メイジ以外の人間はみな焼け死んだ。どうするアニエェス! このまま、焼け死ぬがいい!」リッシュモンは、すでに煌々とした表情をしている。 「人類が品種改良した家畜は自然界では簡単に淘汰される。 狼などの野獣に、簡単に食い殺されてしまうからな…… あいつらが生きていくには、人間の保護が必要なのだ。 家畜が自然界で生きられないようにッ! お前たち平民がッ! メイジの加護なくして生きられようはずがないのだぁッッッ!」 「ならばッ! そのための牙だ! われわれは自ら生きるためにッ!六千年もの忍従の時を経てッ! 剣や銃という牙を研いできたのだ!」 アニエスは近くの民家に身を潜める。だが、そこにもメイジの一団が容赦なく火炎の魔法を浴びせかけてくる。 「くそッ。絶体絶命か……」 そう考えるアニエスのもとに、一人の少女が背後から歩み寄ってきた。 「この村の大人たちはみな焼け死ぬの……私のお父さんも、お母さんも…… これからあと十分後、私の両親は二階で抱き合ったまま焼け死んじゃうの…… それはもう決まったこと。誰にも変えられないわ」 アニエスは思わず、その少女を抱きしめた。 「大丈夫だ。お前は私が守ってみせる」 「いいえ、あなたには私を救うことはできない。これは過去に起こった地面の記憶。誰にも過去に起こった出来事を変えることはできない」 「そんな……」アニエスは絶句した。だが、同時に、あることに気がついた。 「どうした、もうあきらめたのか?」リッシュモンの嘲笑じみた怒号が、火の街を響き渡らせる。 リッシュモンの目の前に、アニエスが現れた。 彼女は村の少女を小脇に抱えている。 「観念したようだな」リッシュモンはきざに杖を振り回し、火炎の魔法をアニエスに向けはなった。 だが、アニエスはまったくよけようともしない。 それどことろか、少女をたてにして、リッシュモンの方向へと駆け寄ってくる。 「馬鹿な!そんな餓鬼ごとき、お前もろとも焼き尽くしてくれるわ!」 リッシュモンの放った魔法は直径三メイルほどの火球となってアニエスたちを襲う。 だが、刹那。 どういうわけか、彼の放った魔法は少女の前面で掻き消えた。 「なっ!」リッシュモンの驚愕は一瞬、だが長い一瞬の間であった。 「うぐッ!!!」間合いのつめたアニエスの長剣が、リッシュモンの腹を貫く。 「あの時私は焼け死ななかった! 私は生き延びた! この過去の記憶は、誰にも変えられない!」 「そうか……貴様……生き残りか……」 「そのとおりだ。今こそ、ダングルテールの民の敵、討ち取る!」 アニエスは突き刺した長剣の柄をねじった。そこから、リッシュモンの体内に酸素が猛毒となって送り込まれる。 「畜生……貴様ごとき……下賤の平民風情に……」 終わった。 アニエスは地面に倒れこんだ。両膝ががくがくと笑っている。 『幼いアニエス』を盾にしたからといって、リッシュモンの魔法をすべて『いなした』わけではない。今の彼女には、立ち上がる気力をためる時間を必要としていた。 「お姉ちゃん、大丈夫?」少女が言った。 「ああ、もう大丈夫だ」そう答えたアニエスは、少女が半透明に消えていくのに気がついた。 「おまえ……」 「ええ、スタンドの力がつき始めたのよ。その前に、パパやママのところに行かなくちゃ。そこで、私は気を失うの」 アニエスは後を追おうとしたが、足に力が入らない。 「まて……」 アニエスの言葉に耳を貸す様子もなく、少女は納屋の二階へと上っていった。 そこから話し声がする。 「…この子だけでも……」 「…疫………て持って…ない・・・」 どうやらそこに、実験小隊の指揮官がいるようだ。 なんとしても、その男の小隊長を突き止めねば…… アニエスは残りの力を振り絞って、張って二階に向かっていった。 だが、そこにはすでにメイジの姿はなかった。 変わりにいたのは……平民の夫婦だけ。 だが、アニエスは、その二人に見覚えがあった。 「……パパ…ママ……」 二人はアニエスの存在に気づくことなく、ベッドの上で静かに息を引き取って言った。 最後に、 「アニエスに、神のご加護が……あらんことを……」と呟きながら。 「パパ!ママ!」 アニエスが一瞬送れてそう叫んだ先には、土の壁しかなかった。 リッシュモンのスタンドの力が尽きたのだった。 「母さん……父さん……」 アニエスは、止め処もなく流れてくる涙を、どうにかして止めようとしても、もうどうにもとめられなくなっていた。 第五章 カネによる忘れられゆく記憶 Fin...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2371.html
石造りの床を鳴らしながら歩くのは、銃士隊隊長のアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランだ。 この前の事件の傷は、アンリエッタの治癒魔法で綺麗サッパリ治っている。 王宮では珍しい剣士を見て、周りのメイジが聞こえよがしに中傷を投げかけるが、一瞥もせずに歩く。 まぁ言うと、前のアンリエッタが攫われた時に現れた男の事が気になっていたからだ。 「陛下をお助けになったのは、ヴァリエール家の御息女達だと聞いたが…ならばヤツは何処に行ったのだ」 途中で二騎が離れていったというから、恐らくそれと戦ったのだろうが、確証が無いし、何より姿を見せないと言うのが妙だ。 味方なら、姿を隠す必要が無いし、敵であるなら、自分達の命は無いはずだ。 死んだとは思えないし思ってもいない。メイジではないようだったが、何か別のような物があると感じた。 「考えたところで仕方無い…か」 そこまで考えて思考を打ち切った。 答えの無い考えをしても仕方ない。それよりは、今目の前にある問題を処理せねばならない。 ただ、次に会った時は、蹴りの一発でも入れてやらねばならないとは思うが とりあえずは、当面の問題を解決すべく、執務室に向かう。 「陛下は今、会議中だ。改めて参られい」 「アニエスが参ったと伝えて頂ければ。私、いつ如何なる時でもご機嫌を伺える許可を陛下より授かっております」 衛士隊の隊員が不承不承の体で執務室に消えていったが、しばらくすると入室の許可がアニエスに与えられ中に入っていった。 「…ったく…なんで、ここはこんなに動物が居んだよ」 いい加減慣れてきたかと思ったが、心なしか数が増えている気がする。 小動物ならともかく、デカイのとかまで。 正直、勘弁してくれとカトレアに言ったのだが 「あら、あなたもその内の一つだったのよ」 「…オレも動物扱いか?洒落なんねーよ」 とのこと。 どうも、カトレアは苦手だ。本調子が全く出ない。 シエスタもストレートに突っ込んだとこまで聞いてくる時があるので苦手な部類に入るのだが、こちらは、為す事全て綺麗に受け流されているような気がする。 正真正銘のド天然である。 頭を掻きながら、渋い顔をする。どうもこっちに来てから、こうする事が多くなった。 そろそろ暗殺チーム苦労人ナンバー1に昇格かもしれない。 (苦労を背負い込むのはオメーの役目だぜ?地獄で笑いながらこっち見てんじゃねーだろうな) まぁ、そう思った本人ですらリゾットが笑っている姿なぞ一切見た事が無いから想像もできない。 これが他のメンバーなら容易に想像ができるのだが。リゾットだけはどう足掻こうが無理、無駄だ。 行ける場所ならすっ飛んで行って殴り飛ばすのだが、生憎自殺願望は無いし、ハイウェイ・トゥ・ヘルも発現していない。 (オレが行ったとき、オメーら全員ジジイじゃあ、グレイトフル・デッドの意味がねーぜ) そこまで生きるつもりがあるというわけではないが、そう思わないとやっていけない。 こういう時は表と裏の切り替えが見事なホルマジオが羨ましくなる。 路上商人などをやらせたら右に出るものは居ないはずだ。 渋面をしながらそんな事を考えていると、逆に笑いながらカトレアが覗き込んできた。 いきなりだったので、さすがに怯む。 下の方を向いていたため、覗き込まれるような感じだ。 一般人なら、かなり動揺するとこだが、そこは元ギャング。その辺りは定評がある。 「あなたって、どこかエレオノール姉様に似てるわ」 「…あいつとか?」 ok。ペッシなら殴ってるとこだ。 「そうやって、難しい顔しながら考え事してるところとかそっくり」 「…オレはあいつ程良い趣味は…いや、気にすんな」 もちろん、この前の『妖精さん』の事だ。 中々に面白い光景だったのだが、一応は他言しないと言ってある。 まぁ、バレたらバレたでオレの知ったこっちゃあねー。という感じなのだが。 で、その妖精さんであるが、ここより離れたアカデミーにおいて、お仕事中である。 だが、明らかに何時もと違うと言うか、なんというか、燃え尽きている。 いつ、領地で妖精さんの件が広まるか分かったもんではないと気が気ではないからだ。 その心境たるや、水族館のある囚人の言葉を借りるとまさに「飛びてェーーーーーー」というところであろう。 「あら!もう姉様と仲良くなったのね」 もうマジにメローネでいいから変われと言いたくなる。 反論しても、妙な方向に話が進みそうだったので答えなかったのだが、カトレアが激しく咳き込んだ。 体が弱いという事は知っているので、別段慌てたりはしないが。 「そろそろか。大分読めるようになってきたからな。まぁ無理すんな」 「ふふ、いいのよ。結構楽しいんだから。外の事も教えてくれるし」 九割方情報目的なのだが、さすがに悪いと思わんでもない。 だが、利用できる物は利用する。そうでもしないとギャング界ではやっていけないのだ。 ただまぁ借りを作るというのも気に入らない。恩にしても仇にしてもだ。 「わたしより、わたしの可愛い妹をどうかよろしくお願いいたしますわ」 「…まだ何も言ってねーぞ」 勘が鋭いってLvじゃあない。メローネが見たらニュータイプだ!と言いそうである。 「戦が近いというのはご存知でしょう?そうなると、あの子は行ってしまいそうな気がする 正直、行ってほしくはないけど、それは、あの子が決める事。だから、よろしくお願いしますわ。騎士殿」 「ハッ…!そんな上等なモンじゃあねーよ。オレは…」 そこまで言って、考える。 スデに使い魔でも無いし、命を救われた借りも返したと言ってもいい。 一般的に言えば、もうどうなろうが知ったこっちゃあないはずだが、関わろうとしている。 色々考えたが考えるのを止めた。考えるだけ面倒になっただけだが。 「…まぁそうだな…物好きな暇人ってとこだ」 所変わって再び王宮になる。 やっとこさ自分の順番が回ってきて、アンリエッタの前へと出るが、頭を下げる前に、逆に下げられたのでテンパった。 「へ、陛下!?卑しき身分の私に頭を下げるなどとは!」 「わたくしのために…あなた達、銃士隊があんな怪我をさせてしまいました。いったいどうすれば赦しをこえるのか…」 「頭をお上げください陛下。陛下がやった事ではありません。それに赦せないというのならば、アルビオン連中ではありませんか…」 「そうでしたわね…もう大丈夫です。アニエス」 「それで、調査の件ですが…どうやら内通者が居るようです」 「その者が手引きしたと?」 「正確には王宮を出る際に、『すぐ戻るゆえに、閂を締めるな』と言い外に出た者が一人。 その五分後に陛下をかどわかそうとした一団が。それともう一つ…陛下がかどわかされてからしばらくして、衛兵の装備を奪った者が一人」 後者は当然、我らがプロシュート兄貴の事である。 「装備を奪った者は、内通者に関与しているとお思いですか?」 「関与しているのであれば、時間を置いてわざわざ衛兵の装備を奪うのは妙です。ただ、我々の味方かと問われれば…行動が不自然すぎます」 「…理由は?」 「我々に危害を加えなかった以上、敵とは思えませんが、味方なら姿を現してもいいはずです。陛下を助けたとなれば、恩賞が出るのは確実ですし」 「つまり、現状では分からない…と?」 「残念ながら、そうなります。気にはなりますが…いかがいたしましょう」 「…事前の計画どおり、男の行動を追う事にしましょう。場所をつきとめフクロウで知らせなさい。ただ敵にしろ味方にあるにしろ、正体が分からない者が居るかもしれない以上、気を付けて」 「御意。しかし、泳がすおつもりですか?」 「まさか…あの夜起こった事に関係する全ての者を許しませぬ。国も…人も…全てです」 アニエスは深く一礼し部屋を出たが、今の言を、プロシュートが、いや暗殺チームの誰でもいいが聞いたとすれば間違いなく2~3発殴られるところであるが、幸いな事に暗殺チームも、その生き残りも居ない。 ただ、今修正される事と、このまま突き進むのとがどっちが幸運なのかは誰にも分からないが… もう恒例と化してきたトリスタニアでの情報収集であるが、当面のターゲットであるクロムウェルに関してはどうも、虚無の使い手であるという情報がアルビオンから流れてきた傭兵から入ってきた。 「アレと同じの相手にすんのか…?厄介だな」 もちろん、確定情報ではないが留意しておくにこした事はない。 『ディスペル・マジック』はスタンドに関係無いため問題無いが、『エクスプロージョン』は厄介だ。 ただ、詠唱がクソ長いことも知っているので、即時発動のスタンドなら付入る隙はある。 なるべく、妖精さんのねぐら周りには近付かないでいたが、客が居る事に気付いた。 「VIP待遇ってわけか?バレてねーとは思うがな…」 後ろに二人。尾けてきている。素人ではないが、尾けた相手が悪い。 組織に目を付けられてからは、腐る程尾行を受けていた身である。 それこそ、敵組織と内側からのニ方向から。ある意味、そういう物で歓迎されるのは日常の中に組み込まれていたようなものだ。 チームで、ギアッチョとペッシ以外は、それを撒く術も心得ている。 ペッシは、未熟さから。ギアッチョは尾行でも受けようものなら、そいつを捕まえてブチ割っていたからであるが。 とりあえず、わざとらしく走って、適当な道を曲がる。 これで大抵反応が分かる。 裏通りに面した人もあまり居ない一本道、普通なら尾行を撒くような場所ではない。普通ならだ。 気だるそうに上着を脱ぎ、壁に背を預け座っていると、二人の人影が、その通りに入ってきた。 「…ここを曲がったはずだが」 「隊長はメイジでは無いと言っていたからには、確かなのだろうが…行き止まりだ、この通りは」 顔は知らないが、装備に見覚えはある。銃士隊だ。 「おい、そこのお前。今ここを通って行ったやつはどこに行った」 「…駄目だな、聞こえていない」 そりゃあ、この今にもボケんばかりの老人が、追跡対象だと思うはずはない。 これでバレたら、そいつはメローネ並の変人だ。 「…仕方無い。隊長には見失ったと言うしかないか」 二人が背を見せると、逆尾行開始だ。尾行をしていると思っている方が、尾行されているというのは結構ある。 ランダムに年齢と、ついでに髪も弄ってたため、後ろを向かれても気付かれる事も無く尾けれたのだが、やはり、この手の事は、メタリカ、マン・イン・ザ・ミラー、リトル・フィートに分がある。 しばらく尾けていると、特に覚えている顔を見た。 「首尾は?」 「すいません隊長。どうやら撒かれたようです」 「……そうか。お前達は引き続きヤツの周りを探れ」 「了解」 アニエスが一人になったが、なにやら考えている。 言っちゃあ悪いが隙だらけだ。 「VIP扱いってのは悪くねーが、接客がなってねーぜ。あんなんじゃ金も払えやしねぇ」 「な…っ!」 「まぁ、まずはリスタ(献立表)を見せて貰いてーな。アニエスだったか?何の用だよ」 後ろから、アニエスの肩に肘を置いて、銃を抜き取り、それを観察する。 「うお、単発の火打ち式かよ。こんな骨董品、映画でしか見た事ねー」 「貴様…!」 アニエスがもう片方の銃を抜いて銃口を向けてきたが、別段動じない。 「止めとけ。こっちはそうでもねーが、オメーに向けてる方は致命傷になんぜ」 頭に銃口を突きつけた零距離射撃と、体勢が悪い上、身体を捻られれば弾がそれるかもしれない二つの銃。 不利なのは、アニエスの方だ。撃つ気があるなら、とうに脳漿ブチ撒けられている。 ついでに言えば、グレイトフル・デッドで銃口を抑えてある。 「っ…!この間といい、今といい…何者だ貴様…!」 「さぁな。で、何か用か?殺る気があんなら、相手してやってもいいが、そうじゃあねーだろ?」 尾行者の反応を見る限り、襲撃や暗殺の類では無いだろうと思い、面倒なので直に聞き出す事にしたのだが、予想どおりというとこだ。 「王宮に侵入した正体不明の者を放っておけると思うのか」 「……そりゃあそうだな。ほらよ、返すぜ」 別に銃自体はどうでもいい。スタンドがある分、こんな骨董品使うぐらいなら何も持たない方がマシだ。 「えらく騒がしそうじゃあねーか、何かあんのか?」 「貴様には関係無い事だ」 「まぁな。アルビオンの事なんざオレには関係ねー事だしよ」 「!?」 「…そこまで分かりやすい反応してくれっと、オレとしても引っ掛け甲斐があって逆に気持ち良いよ」 この時期だと、アルビオン関係の事と思いカマかけてみたのだが、いい反応だ。 やはり、このぐらい分かりやすい方が扱い易い。 最近は掴み辛いカトレアの相手が多かっただけに清清しさすら覚える。 「…ッ!謀ったな…!」 「騙される方が悪りぃんだよ。オレ達の世界じゃあ特にな」 なんだかんだ言っても、まだまだギャングである。そう簡単にその思考は変わりはしない。 アニエスを見るが、何かもう言葉を出そうとして出ないといった感じだ。 引っ掛ける事はあっても引っ掛けられるって事には慣れてないって感じの! 「それじゃあ、何やってんのか話してもらおうか。アルビオンの事だろ?ええ、おい」 もう完全にプロシュートのペース。スタンドバトルにしても、会話にしても、主導権を握るというのはいいものである。 「お前みたいな怪しいやつに話せるか」 「仕方ねー自分で調べるか。好きにさせてもらうぜ」 「な…ッ!」 マズイ。ここで、こいつに勝手に動かれては、作戦が破綻するかもしれない。 そうなっては、全て台無しだ。折角の復讐を遂げる機会が永久に失われてしまうかもしれない。 「……私と共にいろ。最低限の事ぐらいは教えてやる」 「オレの監視も兼ねるって事か。まあ悪くねー判断だな」 実際、自分で調べるといっても、確かな情報源なぞ持っていないので調べようが無いのだが向こうから情報を提供してくれる事になった。スタンド能力とハッタリは使いようである。 「宮廷内の裏切り者の尻尾を掴むため動いている」 「そいつが、アルビオンの連中と繋がってるってわけか。分かりやすいな。…金か?」 「そうだ。最近になって、そいつは、軽く見て7万エキューという裏金をバラ撒いている」 「どこも変わんねーな」 パッショーネも幹部連中が裏金を作っているというのはあった。代表的なのはポルポであろう。 バレれば粛清の対象なのだが、ポルポの場合、ブラック・サバスの能力がそれ以上だった為、半ば黙認されていたようだが。 (しっかしこいつの目…こいつぁ捕獲する目じゃねーな。ハナっから殺す気か) それは別に、こいつと対象の問題なのでどうこう言う気は全く無いが、繋がっているというだけで、殺すつもりというのは考えがたい。 逆手に利用すれば、アルビオンへの情報操作にも使えるからだ。 (ま…怨恨ってとこか。オレ達と同じってワケだ) となると、残りは怨恨。復讐しか無い。それも、並の恨みでは無いのだろうと思う。 「そんで、オメーはこれから何すんだ?セオリー通りなら、これから探り入れんだろ?」 「夜を待って、そいつの屋敷に向かうが…妙な真似をしてみろ。即座に撃ち殺すからな」 「おい、オメーこの前といい、殺す殺すウルセーぞ…オレ達の世界では…ああ、オメーはギャングじゃねぇな。忘れろ」 つい習慣染みた言葉が出た。やはり当分の間ギャング気質は抜けそうに無い。 「やはり裏の世界の人間か、お前。日陰で大人しくしていればいいものを、何が目的だ」 「この前の、ツケの回収ってとこだ。あんな連中二度と相手にしたくねーぜ」 正直言えば、死体の相手なぞやりたくない。直喰らって動こうとする相手など初めてだ。 「…まぁいいだろう。来い」 プロシュートを前にして、アニエスが方向を指示しながら歩く。 後ろから何時でも撃てる体勢だが、結構感心している。 この稼業では、臆病なぐらい警戒するにこしたことはない。臆病すぎるのもペッシみたいになるので問題があるが、合格点というとこだろう。 「しばらく、ここで時間を潰す。私の視界から消えたら、どうなるか分かっているだろうな」 「信用されてねーな。ま…オレがオメーでもそうするがよ」 むしろ、ここで逆に簡単に人を信用するようなヤツの方が信頼できない。 そういう意味でこいつは、戦力になり得ると判断した。 特にやる事も無いので寝ていると、アニエスに起こされた。 もう夜だ。ついでに言えば雨が降っている。 「銃を向けられているというのに寝るか?普通」 「気にすんな、撃つ気があんならさっきやってんだろ?」 もちろんグレイトフル・デッドを控えさせ、急所は防御しているので問題は無い。 「抜けてるのか図太いのか分からんヤツだ…時間だ、行くぞ。ここから馬を使う。それとこれを着ろ」 そう言って渡されたのは、衛兵が装備する軽装の鎧と剣だ。 「メンドクセーな。このままでも構わねーだろうがよ」 「構うに決まってるだろうが!銃士隊と行動する平民という奇妙さを考えろ!!」 仕方ねーとして着替えたが、やはり軽装とはいえ鎧は嫌いだ。慣れるようなもんじゃあない。 馬を進めると、高級住宅街に入る。 どれも、これも無駄にデカイ。その中の一角、二階建ての広く巨大な屋敷の前に着いた。 横でアニエスが唇を歪めている。 (やっぱ恨みか) そこで、アニエスが大声で叫び来訪を告げると、門の小窓が開き小姓が顔を出してきた。 「こんな時間にどなたでしょう」 「女王陛下直属の銃士隊、アニエスが参ったとリッシュモン殿にお伝えください。急報ゆえ夜分に申し訳ないが」 首を捻りながら小姓が屋敷に消えていったが、少しすると戻ってきて門の閂を外された。 馬の手綱を小姓に預け屋敷に向かうと、暖炉のある部屋に通される。 そうすると、寝巻き姿のオッサンが現れた。 (ウサンクセー面してやがんな。ペリーコロのジジイといい勝負だぜ) そんな思いをしているとは露知らず、話はどんどん進んでいく。 「女王陛下が、お消えになりました」 「かどわかされたのか?この前も似たような誘拐騒ぎがあったばかりではないか。アルビオンの陰謀かね?」 「調査中です」 (親父は親父でも…狸親父ってとこだな) 内通者というのがこいつの事なのだろうとは思うが、よくまぁこれだけ腹芸ができるもんだと感心する。 戒厳令が敷かれ、街道と港の封鎖が決まり退出しようとしたところで、アニエスが立ち止まった。 「閣下は…二十年前のあの事件に関わっておいでだと仄聞いたしました」 「ああ、あの反乱か。それがどうした」 「『ダングルテールの虐殺』は閣下が立件なさったとか」 低い、怒りを押し殺したような声だ。 「虐殺?冗談を言うな。アングル地方の平民どもは国家を転覆させる企てをしていたのだ。鎮圧されて当然だろう。昔話など後にしろ」 それを聞くと部屋から退出しようとするが、鳴き声が聞こえた。 「ほう…閣下は猫を飼っておいでで?」 「それが関係あるのか?つまらん事を聞く暇があるなら、陛下を探し出せ」 二人が外に出たが、部屋に猫はいない。ただ、植木鉢に植えられた草があるだけだった。 外に出たとこで、今まで黙って聞いていたプロシュートが口を開いた。 「オメーは、ダングルテールの虐殺ってやつの生き残りってわけだ」 それには答えない。苦虫を噛み潰したような顔をしている。 「ま、オレには関係ねーがよ」 言いながら空を見上げる。恨まれる事に関してなら、多分そのリッシュモンにも負けていないはずだ。 それだけ殺しもしてきたし、関係無いヤツも老化に巻き込んではいる。 まぁ、巻き込んだ方に関しては、そんなに死人出してないとは思うが。 実際、列車の中で巻き込んだものの、老死したヤツは居ないはずだ。 広域老化は範囲が広い代わりに、寿命が尽きるまでの時間が結構長い。 その弱った相手に止めを刺すのが、本体の仕事である。 色々骨とか曲がったりするだろうが、解除すれば戻るので問題無い。 小姓から馬を受け取り、アニエスが黒いローブを着るとフードを被り戦支度をすると馬に跨る。 すると、雨の中から誰かがこっちに走ってきたが仕事柄夜目が利くプロシュートはそれを見てマジに辟易した。 「げ…悪ぃ。急用だ。後でな」 「お、おい!どこに行く!」 疾きこと風の如し。追う暇も無くプロシュートを見送るアニエスに、声がかかった。 「待って!待った!お待ちなさい!馬を貸して頂戴!急ぐのよ!」 白いキャミソールを泥と雨で汚し、靴を脱いで裸足で駆けてくるのは妖精さんこと、ご存知ルイズだ。 「断る、邪魔だ」 「わたしは陛下の女官よ!警察権を行使する権利を与えられているわ! あなたの馬を…って確か銃士隊隊長のアニエス!なにやってるのよ!おめおめと陛下をさらわれて!」 「陛下の女官…?しかし、なぜ私の名を?」 「この前、倒れているあなたを見たのよ!とにかく、馬を貸して頂戴!」 この前倒れているというと、あの時しかない。 となると、この少女は… 「では、あなたが…この前、陛下をお救い下さったド・ラ・ヴァリエール殿か。 お噂はかねがね。お会いできて光栄至極。一頭しか無いので貸すわけにはいかぬが…乗られい。事情は説明いたそう」 ルイズに手を差し出すと、そのまま引っ張り上げる。 「陛下は無事だ。…それにしてもヤツめ…どういうつもりだ」 「陛下は無事なの!?そして、ヤツって誰!?」 「気になされるな。恐らく今回の件とは関係無い者だ」 そう言うと、馬を進め駆け出す。二人は夜の闇にと消えていったが、その後ろから一騎が出てくる。雨のおかげで足音は届いていない。 もちろんプロシュートだ。 「危ねー…マジどうなってんだよ」 まぁ、バレても問題無いっちゃあ問題無いが、確実な暗殺遂行にはなるべくこちらの存在を隠しておく必要がある。 敵であれ味方であれだ。 能力を知らないヤツには姿を見せてもいいが、能力を知っているヤツに知れるとスタンドという特殊な力だけあって、一気に広まりかねない。 それでなくとも、トリステイン貴族の中では『悪魔憑き』だの言われていたりするのだ。 「さて…オレとしては、どうすっか」 後を追ってもいいが、内通者の正体が明らかになった以上、そっちを張ってもいい。 というか、クロムウェルの情報が欲しいので、リッシュモンを張って、アニエスが殺る前に口を割らせねばならない。 とりあえずは、アニエス達が片割れを捕らえるなりして、親玉が動くのは明日だろうとして適当な宿に泊まる事にした。 安っい木賃宿を見つけると、金を払いニ階の部屋に通される 別に質はどうでもいい。ホルマジオなぞ、小さくなって下水で寝ていた事もある。それに比べりゃあ屋根があるだけマシだ。 塗れた鎧を捨て、楽な格好になる。服も濡れてはいるがそのうち乾く。 基本的に、どんな場所でも、どんな状態でも寝れるというのが暗殺者だ。今更気にしたりはしない。 ただ、夜になるまで寝ていたので、今は寝る気にはなれなかったが。 壁にもたれながらどうやって口割らせたものかと考え、結局パッショーネ伝統のアレにするかと思っていると、隣の部屋から声が聞こえてくる。 聞き耳立てる趣味はないが、知っている声だったのでもう引力か何かだと思って諦める事にした。 「あの夜わたくしが…自分を抑えきれずに、操られていたウェールズ様と行こうとしていた時…あなたは止めてくださいましたね」 声の主は、現在最も説教したいヤツランキング。ブッ千切ってナンバー1のアンリエッタだ。 「あの時、行ったら斬ると。嘘は許せないと。愛に狂ったわたくしに、そうおっしゃってくださいました ならもう一人は誰かと思ったが、すぐ分かった。 「え、ええ。い、言いました。はい」 現在説教ランキングナンバー2のマンモーニこと才人だ。 ちなみにナンバー3は特に決まっていない。つまり現状対象はこの二人のみである。 「…これを見てください」 「どうしたんですか?少しだけ残ってるこの手の傷」 ああ、もうスゲー心当たりがありすぎる。というか実行犯。 「ある依頼をしようとした時に、ルイズの使い魔の方に踏まれたんです」 「姫様の手を!?なんっつー事を…」 そりゃもう、容赦なくグリグリと踏んだとも。むしろ、それだけで済んだのが奇跡的だ。 肘撃ちからの顔面蹴りが5発ぐらい入っても不思議じゃない。 「あの方は…愚かな事を言った、わたくしにも本気で接してくれました。 それなのにわたくしは、あなた達を殺そうとした。あの方が見ていれば、また踏まれていたでしょうに」 実際のところ、その程度で済まない。 それこそ、『あなた…覚悟してる人ですよね?人を殺そうとするって事は殺されるかもしれないって覚悟してきてる人ですよね』 と言わんばかりに殺されても文句は言えないはずだ。 そう言った意味では、ものスゴクアンリエッタは運が良い。 「だから、お願いしますわ。新しい使い魔さん。また何か愚かな行為をしそうになったら…あなたの剣で止めてくださいますか?」 「なんだって!?」 ブチャラティかと言わんばかりの叫びが聞こえてきたが、まぁ当然だろう。 「その時は、遠慮なく斬ってくださいまし。ルイズは優しいから、そんな事はできないでしょう。ですから…」 「できませんよ!…そんな弱くてどうするんですか。あなたは女王様なんだ。自分の意思で皆を守らなくちゃ」 壁一枚隔てた壁から、そんな会話が聞こえてきたが、甘いなと思う。 上に立つからこそ、それに比例して責任が大きくなる。 まして、5万という大軍を私怨にも近い感情で動かすからには、ドジこいた時に一回死んだぐらいでは済まされない。 暗殺チームも私怨で離反したようなものだが、アレは全員がそうだったからで、こいつの場合そうではないのだから。 「どうなろうとオレの知ったこっちゃあねーがな…届く範囲で影響なけりゃあよ」 別に、侵攻作戦が失敗しようとも、周辺に影響が無ければそれでいい。 全部を面倒見てやれるほど、万能でもないし自惚れてもいない。 「ただ、まぁトチったら…そんときゃオレがキッチリ始末してやんよ。オメーをな」 ルイズや才人が斬れないなら、オレが殺ってやる。大体、他人に止めてもらう事を前提にしてるってのがムカついてきた。 もうなんか、今こいつを殺っちまった方がいいんじゃあねーか?とも思ったが押し止める。 依頼もされてないし、廃業したばかりというものあるが、どうもこう、アンリエッタを見てると、ペッシとギアッチョを足してメローネで割ったような感じだ。 足した意味もよく分からんが、とりあえず今殺すようなタマでもないと判断した。 ギャングというものは基本的に自己中心的思考なのである。 正義感溢れるやつなら、この姫様のために。とか言って必死こいて頑張るか、責任の重さに対して熱く語るかだろうが、そこまで面倒見る気も無いし、責任なぞ自分で理解せにゃ一生分からんと思っている。 だからこそ、ペッシに厳しくしていた。 もっとも、出れる状況なら『ナメた事言ってんじゃあねーぞ、このクソガキが!』とマジに殴っているが。 特に聞くような情報も無かったので、眠気が襲ってきた。 常に襲撃があるかもしれない状況だったので、寝れる時に寝ておくという習慣みたいなものだが これも、まだ抜けそうに無い。いい加減慣れにゃあならんと思って目を閉じると、隣から扉を叩く音と 『ズキュウウウウン』というような音が聞こえてきたが、まぁこっちは幻聴かなにかだろう。 そうして、しばらくするとこっちの扉も叩かれる。面倒なので放っていると破かれた。 「ウルセーな…なんの用だ」 「王軍の巡邏の者だ!犯罪者が逃げてな、順繰りに全ての宿を当たっている!さっさと開けんか!」 「で、ここに、その犯罪者ってのはいんのか?」 そりゃもう、世界が違えば特A級の犯罪者がここに。 しかしながら、この世界では未だフリーマン。真っ白である。ギーシュ殺ったけど。 「いや…邪魔をした。行くぞ」 「そう思うなら来んな」 「こっちだって好きでやってるわけじゃない。隣の部屋なんてお楽しみの最中だぜ」 「シケてんな、オメーらも。見てて哀れになってきたぜ。ほらよ。その代わり、何があったのか聞かせろ」 そう言って投げ渡したのは数枚の金貨。別段金に困ってるわけでもないし、余裕もある。伊達にヴァリエール家で働いているわけではない。 「お、悪いな。詳しくは言えないが、ある方がさらわれ、それを捜索中でこの雨の中駆けずり回ってんだ」 「…そういうわけか。ああ、もう行っていいぜ」 衛兵を見送ったが、どういう状況かを纏める。 隣に居るのがアンリエッタならば、捜しているのはそれだ。 そして同時に居るのが、才人ならかっさらわれたというわけではないし、アニエスの行動も妙だ。 「テメーを餌にしてるってわけで…その餌に喰らい付くのは明日ってとこか。随分とデケー狸狩りじゃあねーかよ」 そう結論付けると寝る事にした。衛兵が隣の部屋はお楽しみとか言ってたが、別にどうこう言う気も無い。 当人の問題だ。その結果がどうなろうともそいつの責任。基本この元ギャング。その手の事に関しては完全不干渉である。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/395.html
フーケ捕縛から数日経ったが未だイタリアへ戻る手段は見つかっていない。 左手のルーンは『ガンダールヴ』の印というもので始祖ブリミルの使い魔で武器全般に精通していたらしく パンツァーファウストの使い方が分かったのもこれの効果らしかった。 グレイトフル・デッドを使い敵を排除してきたため今まで気付けなかったのだが武器なら特になんでもいいらしく発動するらしい。 「ふん…スピードとパワーが上がっているが…本体に上乗せされる形みてーだな」 デルフリンガーを持ち試してみて確認できたのは 1.本体のスピードとパワーの上昇 2.武器の使用方法が理解できる この二つだ。 スタンドも同時に発動させてみるが、グレイトフル・デッドの破壊力と精密性とスピード自体は上がっていない。 直触りに関しては、本体が直触りを仕掛ければ済むが片手が塞がってしまう事で攻撃は弾いたりする事は可能だが直は片手のみで行う事になる。 「本体のパワーアップか…スタンドの能力を重視するか…か。両方できりゃあいいんだが、そう都合よくはいかねぇもんだな」 錆を落としながら (リゾットならメタリカですぐ落とせるんだろうがな) と思っているとデルフリンガーが口を開いた。 「兄貴ィ、兄貴の横に居る化物は何なんだ?」 「……オメー、スタンドが見えているのか?」 「見えてるというより感じていると言った方が正しいぜ」 「まぁ剣が話してる事自体異常だからな…感じ取れても不思議じゃあねぇが」 「それにしてもおっかねぇよなぁ…夜に他のヤツが見たらぜってー茶ァ出すね」 「違いねぇな」 茶の部分はスルーし、己のスタンドを改めて見る。 下半身は存在せず胴から下は触手が『ウジュルジュル』と言わんばかりに蠢き無数の眼を持ちそこから煙を出しながらにじり寄ってくる化物を夜に見れば誰だってビビる。 ペッシが初めてグレイトフル・デッドを見た時なぞ本気で泣いていた事を思い出す。 もちろん説教に突入したのは言うまでもないが。 錆落としと印の効果を試し終えると、爆睡かましているルイズを叩き起こし授業へと向かう。 正直興味は無いが『護衛』継続中であるからには一緒に出ておかねばならない。 適当にルイズの近くの席に座る。 さすがにこの段階になって誰もその行為にケチ付けようとする者は居ない。 そこに新手の教師が現れる。 長めの黒髪に漆黒のマントを纏い冷たい外見と不気味さを併せ持った男だ。 「…雰囲気がリゾットに似てるな」 「リゾット?誰それ」 「オレ達のリーダーだ」 男が『疾風』のギトーと名乗った。 外見に反して結構若いらしく、その辺りもリゾットに似ている。 だが、性格そのものはリゾットとは大違いで一々人を挑発するような言い方をする。 (夜道に後ろから刺されるタイプだな) 率直にそう思う。 プロシュート自身、些細な恨みを積もらせ殺されたヤツを腐る程見てきた。 挑発に乗ったキュルケが直系1メイル程のファイヤーボールを作り出しギトーに向け放つが ギトーは腰に差した杖を引き抜きそのまま剣を振るような動作で烈風を作り出し火球を掻き消す。 その烈風に吹っ飛ばされキュルケがこっちに吹っ飛んでくるが避けるのも何なので一応受け止めた。 それが元でルイズとキュルケが睨み合いを始めるがギトーはそれを無視するかのように解説を続ける。 「『風』は全てをなぎ払う。『火』も『土』も『水』も『風』の前では立つことすらできない 試した事は無いが『虚無』さえも吹き飛ばすだろう。つまり……『風』が最強だぁぁぁ!はらしてやるッ!!」 もちろん様々なタイプのスタンド使いと戦ってきたプロシュートはそうは思わない。 地形、相性、策、他にも色々あるが様々な要因で勝敗が変わる事を身を以って知っている。 グレイトフル・デッドの老化がギアッチョの氷に通用しないがリゾットの磁力では氷を突破できる事を。 そしてまたリゾットが姿を消したとしても自分の能力ならば見えなくとも攻撃できる。 ホルマジオがよく言っていたが要は使い方次第で幾らでも変わるのだ。 ギトーがヒートアップしながら 「カスのくせによォォ~~ええ!ナメやがって、てめえ!」 と呟いているがそこに妙な格好をしたコルベールが乱入してきた。 プロシュートが思わず(どこのルイ14世だ)と突っ込みを入れたくなるぐらい不似合いな格好で。 その慌てている様子から見てかなりの大事なのだろうと予想を付ける。 コルベールが授業の中止を告げると教室が歓声が上がった。 「本日先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニア御訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸されます」 早い話偉い人が来るから出迎えの準備を生徒全員で行うという事である。 魔法学院の正門を通り王女を乗せた馬車を含めた一行が現れるのと同時に生徒達全員が杖を同時に掲げる。 北の将軍様も驚きのタイミングだ。 オスマンが馬車を出迎え絨毯が敷かれ馬車の扉が開き先に男が先に外に出て続いて出てきた王女の手を取った。 同時に生徒達から歓声が沸きあがる。 「随分と人気があるみてーだな」 「当然じゃない、トリステインの花って言われてるのよ」 だがプロシュートの興味は王女より鷲の頭と獅子の胴を持つ幻獣に乗った羽帽子の男を見ていた。 (マンティコア…いやグリフォン…だったか?メローネがやってるゲームで見た事あるが 貴族ってのはマンモーニばかりだと思っていたが…やりそうなのも居るじゃあねーか) ルイズやキュルケもその男に視線がいっているのだがプロシュートも見ているため気付いていない。 三者三様の視線が浴びせられている事も気付かず男は去っていった。 夜になり部屋に戻ったルイズとプロシュートだがルイズがベットに腰掛けたまま動こうともせずポケーとしている。 別にプロシュートにとってはどうでもいいのだが何時もと違う様子にはさすがに違和感を感じていた。 しばらく何もしないでいると、プロシュートの顔が瞬時に暗殺者のそれに変化したッ! (……一人だが…抜き足差し足でこっちに向かってきてるな) その時ドアがノックされた。 規則正しく長く2回、短く3回ノックされそれを聞いたルイズがハッと気付いたかのように反応した。 だがスデに警戒態勢に入っていたプロシュートの方が早い。 急いで着替えているルイズを尻目にドアを慎重に開ける。 真っ黒な頭巾を被っていた人が部屋に入ってきたのを見た瞬間――― 「きゃ……ッ……ッ…!」 プロシュートが流れるような動きで叫ばれないように口を押さえ押さえ込むようにそいつを地面に押し付けていた。 「…オメーみたいにあからさまに怪しいヤツってのも今時珍しいが そんな格好で人の部屋に入ってくるって事は賊とみなされても仕方ないって『覚悟』してきてるんだろうな」 言いながら、頭巾を剥ぐがそれより先に何かの魔法を使われた。 「ーーーッ!グレイトフル・デッド!」 何かの魔法を使われたからには老化させるしかない。その結論に達し直触りを仕掛けようとした刹那―― 「やめてプロシュート!そのお方は姫殿下よ…!」 慌ててそう叫んだルイズが膝を付いた。 その声に瞬時に反応し直触りを中止する。 頭巾を剥いだ顔を見る、興味が無かったためあまりよく見ていなかったが確かに昼間見た王女だった。 それを確認し、拘束を解くがまだスタンドは何時でも触れられるようにしてある。 アンリエッタが多少苦しそうに、だが凛とした声で言った。 「お久しぶりね…ルイズ・フランソワーズ」 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/117.html
わたしは考えるよりも先に行動していた 「やめなさい!」 ギーシュを庇う様に立つ 「どうゆうつもりだ、ルイズ」 「ここまでよ、勝負はついたわ」 「コイツはまだ生きている、勝負は付いちゃいねえ」 「もう、ついたのよ。昔は命を取り合ってたけど、今は違うわ」 「なんだそりゃ、ええ、おい。」 貴族だメイジだ、つっても、そこら辺のナンパストリートや仲よしクラブで 大口叩いているいるような負け犬どもと同じじゃねーか 貴族を侮辱する様な考えが流れてくる。違うと言ってやりたいけど 言うと、もう取り返しがつかなくなるので我慢する 「それに殺したら捕まって牢屋に入れられるわ、もちろん主人である、わたしもね、 そんなの嫌よ。だから・・・お願い、プロシュート」 まさか、わたしが使い魔に命令じゃなく、お願いをする事になるなんて 「・・・お前やっと俺を名前で呼んだな」 そうだっけ? 「ハン、いいだろう。その小僧は殺す価値も無い」 「ありがとう、プロシュート」 それにしても、この使い魔が名前で呼ぶことを気にしていたなんて 意外でなんだか可笑しかった 先生にギーシュの治癒を頼み、空き部屋のベットに寝かしつけた。 今、この部屋には、わたしとプロシュート、ギーシュとモンモランシー。そして、メイドが1人いる メイドがプロシュートに声を掛ける 「あの、すいません。あのとき、逃げ出してしまって」 食堂の騒ぎの時、彼女もその場にいたのだろう 「別に、お前は関係ねえだろ」 「ありがとうございます」 メイドが深くお辞儀をした後、部屋から出て行く プロシュートの冷たい態度もメイドには巻き込まない為の思いやりに見えたのだろう 「ルイズ。彼は何者なんだ?この僕のワルキューレを倒すなんて・・・」 起きたのだろうギーシュがわたしに疑問を投げかける 「ただの平民でしょ」 「ただの平民だな」 わたしと、プロシュートが答える 「君たちは、僕を馬鹿にしてるのかい」 「よく気がついたなマンモーニ」 プロシュートがニヤリと笑う 「「ぷっ」」 わたしとモンモランシーが吹き出す 「なっ、モンモランシー君まで笑うなんて酷いじゃないか」 「でもギーシュ、あなた何時も、父上兄上って言ってるじゃない」 わたしが答えてあげる 「先祖を誇りに思う、何がいけないと言うんだね」 ギーシュが反論する 「誇りに思うことと、乳離れ出来ねえのは別だぜマンモーニ」 プロシュートが言い放つ、ギーシュは顔を赤くし唸っている 「もう、大丈夫だな行くぞルイズ」 「何、仕切ってのよ」 プロシュートが部屋から出て行く 「待ちたまえ、話はまだ終わっていない。彼は一体何者なんだね?」 部屋からギーシュの声が聞こえてくる そんな事、わたしが教えてほしいわ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1850.html
「散々、とはいかないまでも、あまり良い出来ではなかったね」 ため息をつきながら、桃色の少女がけだるげに二人の男に話しかけていた。 ここはトリステイン学院の女子寮。ルイズの部屋である。 時刻はすでに夜半を過ぎている。このとき、ルイズとその使い魔たちは先ほど行われた『使い魔の品評会』の反省会をしていた。 結果から言おう。ルイズの品評会はあまり好評を得られなかった。 結局、ルイズたちの演目は、ブチャラティが舞台会場に出て、挨拶をするという、至極単純なものであった。 そのときブチャラティはトランプを使った簡単な手品を披露したが、はっきり言って地味であった。 しかも、その次に出演した使い魔がタバサの巨大な風竜であった から、会場の雰囲気は完全にタバサとられてしまった。ちなみに、今回の品評会の優勝はタバサとその使い魔、シルフィードであった。 「でもいろいろな幻獣が見れた僕としては、メチャ有意義だったぞ」 露伴が今日スケッチした奇怪な動植物の群れを眺めながら言った。この男は、心底上機嫌である。 品評会のときは衛兵の邪魔もなく、思う存分使い魔達の取材ができたようであった。 「特に恥はかかなかったけれど、ヴァリエール家としては失格ね。エレオノール姉さまが会場にいなくて本当によかったわ。でも、なんか引っかかるのよね…… 何か忘れてるような……」 ルイズは腕を組みながら、部屋中を歩き回っていた。 「嬢ちゃん、自分の使い魔が『人間の平民』だってことが皆に大公開されちまったわけだが、 嬢ちゃんの言いてーことはそーいうことか?」 「そうよ! そうだわ! よりによって姫様に……」 ルイズの顔が一転して蒼白になる。 彼女の顔から尋常ではない汗が流れ始めている。彼女の目元は暗く、低い声で発せられる独り言は何かの高等な呪文のようにも聞こえた。 「もうダメよ姫様に嫌われてしまうもう合わせる顔がないわそれにヴァリエールの家にも使い魔のことが知られてしまうわエレオノールの姉さまや母様達にどんなことを言われるか最悪学院を退学させられるかもうんきっとそう……」 「でも、使い魔といってもあまりすげぇのはいなかったよな! ブチャラティ!」 「えぇ? あ、ああ。逆にモグラとかフクロウとか微妙なものが多かったな! なあ、デルフリンガー」 ルイズの呪詛がぴたりとやむ。彼女はゆっくりと使い魔たちに振り返った。 その顔はなぜか幽鬼のように青白い。 「……そう?」 「そうだぜ! それとオレのことはデルフって呼んでくれ! ブチャラティもな!」 「……そう。ありがとう、デルフ。 それに所詮使い魔なんてどれも似たり寄ったりね! その中に人間がいたってちっとも不思議じゃないんだから! ……多分」 「今度は一人で笑い始めたぞ……どーすんだ? ブチャラティ」 「露伴、お前も何か言ってくれ……ってこんなとき位スケッチはやめろ……」 十分程経過しただろうか? 彼女はそのような一人わらいを続けた後、大きく深呼吸を始めた。 「済んでしまったことはいまさら後悔しても始まらないわね。 今夜はとりあえず寝て、明日これからのことを考えましょう。 着替えて寝るからみんな外に出て」 「ああ、おやすみ」 ブチャラティは安堵の表情を隠せない様子で返答した。 「じゃ、明日な」 露伴は満足げにスケッチブックを閉じると、デルフをつかんで立ち上がった。 「そーいうことで、しっかりとイイ夢見なよ嬢ちゃん」 彼らが退室すると共に、ブチャラティの手でルイズの部屋のドアが閉じられる。 「今日はものすごく充実したいい日だったな! いい取材日和だった」 「俺は最後にすごく疲れたよ……」 「ロハン、オメー……ある意味すげー尊敬できるぜ」 二人が女子寮の入り口の前でまさに別れようとするとき、物陰から女性の声が発せられた。 「もし……そこにいらっしゃるのはルイズの使い魔殿ではないですか?」 上品だが、声の芯がか細い。それにどこかで聞いたことがある。 「何者だッ?」 ブチャラティは声を低くしてそれに答える。それと同時に、彼は声の主がいると思われる物影から、ルイズの部屋のドアを守りやすいような位置に移動した。 「わたくし、アンリエッタ・ド・トリステインと申します」 物陰から姿を現したのは、はたして、紛れもないトリステイン王女その人であった。 「『ブチャラティさん』でしたわね? このような場です。 身分など気にせず楽にしてください」 「ちょっと待て、ひとつ聞くことがある。なぜ、一国の王女がこんな所にいる?」 露伴の詰問はしかし、王女の次の言葉でとぎられることとなった。 「まあ! あなたはキシベ=ロハン殿ですか? マンガ家の! わたくし、あなたが毎週描かれる『ピンクダークの少年』だけが王宮での唯一の楽しみなのですわ!」 「そ、そうかい。そいつはよかったな……」 王女は露伴に駆け寄り、彼の両手を覆うようにつかみ、畳み込むように話しかけた。 狂信者の目つきで訴える王女の剣幕に、さすがの露伴もたじろいでいる。 その様子さえ気づかず、アンリエッタ王女は握手をするように露伴の両手を上下させ叫ぶように話を続ける。 「ええ! あなたのマンガはとてもすばらしいですわ! 『ブルーライトの少女』もすばらしかったですけれども、やはり『ピンクダークの少年』にかなう娯楽はハルケギニア中、いいえ、エルフの世界を探しても見つかりっこないでしょう!」 「そうか。あ、ありがとう……」 「そんなことより、だ。王女様はなぜこんなところにいる?」 ブチャラティの言葉に我に返ったアンリエッタは、返答より先に自身の杖を振り、『ディテクトマジック』の魔法を唱えた。光の粉が、周囲十メイル程に降り注ぐ。 「……どうやら『監視』は無い様ですね」 王女はホッとため息をつき、初めてまともな笑顔を彼ら二人に向けた。 「どこに目が光っているかわかりませんものね」 「そう…………『監視』…………無いのね」(ニヤリ) 『ヘブンズ・ドアー』!! 次の瞬間、王女は意識を失った。 そのまま地面に倒れかかるが、岸部露伴に体を支えられる。 彼はそのまま王女の『本』を興味深そうに眺めている。 露伴の傍らにいるブチャラティが周囲を警戒をしつつ、相方に尋ねた。 「どうだ、露伴。彼女はルイズにとって安全な存在か?」 「大丈夫だ。こいつに悪意はないらしい。何かに操られているということもない。 ルイズとは気の置けない旧友のようで、今回はルイズに友人として会いにきたようだ。どうやら頼み事があるらしい」 「そうか」 ブチャラティはホッと息をついて警戒を解いた。いいかげんこの学院の雰囲気にもなれないといけないな、と思いながら…… 「なになに……彼氏はいない。 スリーサイズはB84/W59/H85……」 「おい…」 (『キング・クリムゾン』!) 「それ以上は…」 (『キング・クリムゾン』!) 「ちょっと待て…」 (『キング・クリムゾン』!) 「ロハン!」 (『キング・クリムゾン』!)「……それに初めてキスをした時舌を入れられてるぞ」 「 い い 加減 に しろッ!! ロハン!!」 「わかったよ(面白くないやつだな)……『今のことはすべて忘れる』と……」 「聞こえてるぞ…」 その後、意識を取り戻した王女は、先ほど起こった事態にはまったく気づかずに、ブチャラティにささやくように話しかけた。 「ルイズはいますか?」 「ああ、いま寝るために自分の部屋で着替えているところだ」 「では、ブチャラティさん。その部屋まで案内してくださいませんこと? それと、大変申し訳ないのですが…… 今回はルイズと会うために参りました。ミスタ・ロハンは、今回は部外者です。 これ以上はミスタ・ロハンといえども足を踏み入れてほしくないのです」 「わかってる。気にすんなよ、実は僕もルイズの使い魔だ。ここにブチャラティと同じルーンが刻まれてあるだろう?」 そういいつつ、露伴は自分の手の甲に刻まれたルーンを見せ付けた。 ついでに、ブチャラティの腕を引っ張り、同じ紋章をアンリエッタに見せている。 その紋章を見たアンリエッタは目を丸くしている。 「まあ、使い魔が二人も……ルイズは子供のころから一味違う人でしたけれども、彼女はすごい人ですわね」 王女は心底感嘆したような声を発した。そこにはルイズを蔑視するような意思は、まったく見受けられない。むしろ羨望を感じる声の響きだ。 「そのようなことであれば、御二方、ルイズの部屋までご案内くださいまし」 ルイズの部屋に、アンリエッタを連れたブチャラティたちが進入していた。 「すっかり寝てしまっているな……」 ブチャラティは嘆息した。彼がいくらルイズの部屋をノックしてもまったく返事が なかったので、一行はルイズに無断で彼女のの部屋に入っていた。ちなみに、鍵は アンリエッタの『アンロック』の魔法で解除している。 「ルイズは熟睡しちまってるぜ」露伴はめんどくさそうに応じた。 彼女が寝てしまったら、なかなかおきないんですよ。 たたき起こせば起きますがね、僕はやりたくない。 露伴の傍若無人な態度に気にした様子もなく、アンリエッタはなぜか自信たっぷり に応じた。 「ええ、とてもよく知っていますわ」 王女がベッドで寝ているルイズにそっと近づき、耳元でルーン・マジックをそっと囁 いた。 「↑↑↓↓←→←→BA」 「ふにゃ……ヨガファイア……ハッ」 ルイズが突然目覚めた。それも寝ぼけずに、完璧に。 「あれ……姫さま?」 あわててベッドから起き上がるルイズに向かって、感極まったようにアンリエッタが 抱きつく。 「ああ! 私のルイズ! 私の数少ない、心の許せるお友達! 今までどんなに会いたかったでしょう! 今までどんなにお話したかったことでしょう!」 「ひ、姫様、もったいないお言葉にございます」 ルイズは急に抱きつかれたためか、はたまた寝起き姿のまま王女に遭遇したためか、 完全に舞い上がって身体を硬直させてしまっている。 アンリエッタはルイズの首に抱きしめた腕を放さずに感極まったように叫んだ。 「まあルイズ! そのような堅苦しい言葉遣いはおやめになって! わたくしたち、幼いころは人形をとりあって取っ組み合いをした中ではありません の」 「ええ、そうですね。あの時、私は姫様の覇王翔吼拳をおなかに受けて気絶してしま いました」 「それから二人してラ・ポルトの爺にしかられたわね」 ようやくルイズを抱擁から開放したアンリエッタは、それでもルイズの両手を握り締 めながら、慈しみのあふれた眼差しをルイズに向け、微笑んだ。 その笑顔は、先ほど行われた品評会の会場で見せていた笑顔とは似ても似つかぬ、温 かみのあるものであった。ルイズはその表情の中に、安らぎの感情をを感じていた。 ルイズはようやく落ち着きを取り戻し、アンリエッタを王女としてではなく、旧友と して向かいあった。 二人ははにかんだように、在りし日の美しい思い出を振り返っていた。 (王宮の中庭にて……) (「うおおッ! 『人形』はわが手にッ!」) (「ルイズがラ・ポルトから『人形』をGetする方法を見つけたというのなら…… それはそれで利用すべきだわ……」) To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1392.html
虚無の曜日。 この休日を魔法学院の生徒達はそれぞれ思い思いに使っている。 キュルケはもちろんデートの予定だし、タバサは静かに読書ができればいい。 ルイズはというとトリステインの城下町目指して馬で草原を駆けていた。 正確には使い魔を引き連れているのだが、ブラック・サバスは馬の影に入り込んでいるため姿が見えない。 道中会話をするわけでもないので、片道3時間の道のりは実質一人旅のようなものだ。 城下町でルイズはブラック・サバスに何かを買ってやるつもりだった。 モンモランシーに言われたからではないが、ブラック・サバスの力はあまり回りに見せるべきではないと思うようになっていた。 そこで、それなりの武器を渡しておけば、あの力に頼らなくてもいいのではないかという考えに至ったのだ。 もちろんヘタに危険物を渡して、また面倒ごとが増えるのではないかという懸念もある。 だが、最近のブラック・サバスは使い魔としての意識が芽生え始めたためか、ルイズの影にいることが多くなっていた。 授業にも、食堂にもついてくる。ただし何も食べようとしないが。 朝起こしたり、着替えを手伝ったり、掃除をしたりはしないが、洗濯だけは謎の使命感を持って毎日毎日している。 これはどうやらシエスタがいつも手伝ってくれているらしい。 シエスタは洗濯自体を手伝うだけでなく、ブラック・サバスが通れない道があったら自分の影に入れてやったりもしてくれているそうだ。 その事についてシエスタに礼を言ったら、自分も楽しんでやっているので気にしないでと言われた。 最近はブラック・サバスとも会話が弾むらしい。 と言っても一方的に話しかけるだけだが、それでも最初のときのような重苦しい雰囲気は感じないそうだ。 それはルイズも感じていた。何より最近はあのワンパターンのやり取りも減ってきている。 ……結局何が言いたいかというと、今のブラック・サバスになら武器を持たしてもそれほど危険ではないと判断したのだ。 トリステイン城下町に入る少し前でルイズは馬から下りた。 「サバス」 その呼び声に反応して、ルイズの影からニュッとブラック・サバスが現れる。 「ここからは歩いていくから。他の人の影とかに付いて行ったりしたらダメだからね!」 ルイズが腰に手をあて、まるで子供に対するようにブラック・サバスに注意事項を聞かせる。 「スリも多いからね。…………あんた財布は大丈夫?」 そう尋ねるとブラック・サバスは口を大きく開き、その中をルイズが見えるように向ける。 たしかにその中には、金貨が詰まって膨らんだ財布が入っているのが分かる。 それを確認したルイズは機嫌よさそうに笑った。 ピンクの髪の美少女と黒づくめの亜人のコンビは大通りでも目立つ存在だった。 ブラック・サバスからの妙な威圧感からか、通行人が避けて歩き、ルイズ達は目的の武器屋まで割とすぐに到着した。 薄暗い店の奥にいた親父はルイズが貴族だと気づくと、くわえていたパイプを離した。 「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられることなんかこれっぽちも」 それを聞いたルイズはブラック・サバスを指差す。 「客よ。使い魔に武器を買いに来たの」 「忘れておりました。最近は『土くれ』のフーケとかいうメイジの盗賊も暴れてるって噂ですし、下僕にまで剣を持たせるのも当然ですね」 ルイズはそこらへんの話は適当に聞き流し、ブラック・サバスの方を見る。 店の中が暗いため、今はルイズの影から出て店内を物色している。 「サバス。店の奥に行ったらダメだからね」 ルイズは改めて店主の方を向き尋ねた。 「『矢』とかないかしら。弓はいらないんだけど」 ルイズはブラック・サバスに合う武器はなんだろうと考え、口から剣を飛ばすよりも、矢のほうが様になるという結論に至っていた。 しかし、店主は首を横に振る。 「スイヤセン。あいにく矢も弓も置いておりやせんが……これなんかいかがです」 実際は店の奥に弓も矢も置いてあったが、せっかく世間知らずの貴族の娘が来たのだ。 鴨がネギをしょってきたとはまさにこのこと。店主は見栄えはいいだけで、使い物にならない剣を持ってきた。 「剣ですが。これなんかいかがです?」 店主の出してきた剣はまさに豪華絢爛。鋭く光る銀色がまぶしい。 「なかなかよさそうね。サバスこれにする?」 ルイズは一目見た瞬間から、その美しさに目を奪われていた。 だが一応使う本人であるブラック・サバスにも聞いておこうと、後ろを向いた。 「離しやがれ!この陰気臭えヤローが!」 急に聞こえた罵声に驚く。その声はブラック・サバスの方から聞こえてくるが、そのしゃべり方も声色も全く違う。 「離せって言ってんだろ!人間以外に使われる気はねー!」 その声はブラック・サバスが掴んでいる一振りの剣から発せられていた。 「やい!デル公!お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 「デル公?……もしかしてこの剣インテリジェンスソード?」 ルイズは珍しそうにその剣を眺めた。珍しいと言えば、ブラック・サバスも興味深げにジロジロとその剣を見つめている。 「フ~ン確かに珍しいけど。どうせ使うならこっちの綺麗なほうがいいでしょ」 そう言ってルイズは再び店主が持ってきた、豪華な剣を手に持ってみる。 「は!上等だ!テメーらみてーな奴らに使われるなんて、こっちから願い下げだ…………ん?」 急に罵声が止まる。剣はブラック・サバスとしばらく見詰め合った後、口を開いた。 「おでれーた。見損なってた。てめ、使い……え、ちょっなにす……………………アッー!」 「ちょっと!サバスーー!ストップ!出しなさい!そんなの食べたら腹壊すわよ!」 ルイズはブラック・サバスが、デル公と呼ばれた剣を口の中に押し込んでいくのを見て、慌てて止めに入る。 刃の先端から入っていき、もうすでに顔の部分と思しき場所まで飲み込まれつつある。 サバスは動きを止めルイズのほうを見る。 ルイズは口の中に手を突っ込み柄をしっかり握ると、ブラック・サバスに。 「なによ!こんなのやめときなさい!もっといい剣買ってあげるから!」 「いやあ!やめてえ!他のもっといい剣買ってあげてェ!俺はいやだああ!」 口の中から悲鳴が聞こえる。ルイズは少しその悲鳴を聞いていたが、無視して再びサバスの方を見る。 「…………」 「…………」 「あっちのほうが綺麗よ。あっちにしときなさい」 「…………」 「口の中でしゃべられたら、きっとうるさいわよ」 「…………」 「…………これを気に入ったの?」 サバスがルイズの顔を見つめる。 ゴクリと唾を飲み込む音が口の中から聞こえる。恐らくインテリジェンスソードのだろう。 ブラック・サバスはこくりとうなずいた。 ルイズは溜息をひとつついて、柄から手を離した。 再び剣は口の中へと吸い込まれていく。 「ぎゃあー!!たぁすぅけぇ…………」 断末魔の叫びも聞こえなくなったところでルイズは店主の方へ振り向いた。 あっけにとられた顔をしてこちらを見ている店主に、ルイズは事も無げに伝えた。 「このインテリジェンスソード買うわ。おいくら?」 デルフリンガーGET! To Be Continued 。。。。?
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1743.html
「なあ、ルイズよぉ」 セッコは自分の首についた鎖を弄り回しながら呟いた。 その首輪についたプレートに、彼には読めない文字が刻んである。 “狂暴につき注意” 「オレ、アルビオンであれだけ頑張ったのにさ、何で前より待遇落ちてるんだよ。おかしくね?」 ルイズが大きな溜め息をひとつ吐く。 「あんたねえ、自分の胸に聞いてみなさいよ!」 事は2日前に遡る。 ワルドの裏切りにあい、ほうほうの体でアルビオンから脱出したルイズたちは、 アルビオン動乱の影響で厳戒態勢のトリステイン王宮へと事の報告に向かったのであった。 その過程で王宮の門の“内側”に着地したため、王宮の警備をしている魔法衛士隊に不審者として捕縛されてしまったのだ。 不審者と思われる事自体はある程度予想できていたのだが、その後がいけなかった。 いきなり見知らぬ男に襲われたと勘違いした寝起きのセッコが、ルイズたちが止めるまもなく暴れだしたのである。 偶然近くに居たアンリエッタ姫とマザリーニ枢機卿がルイズに気づいた為、 大事には至らなかったが、もう少しでルイズたちは反逆者にされかけたのである。 その上密命の成功報酬は、セッコが破壊した壁の修理費と、 取り押さえようとして怪我をした魔法衛士隊員の治療費に充てられ全て消えた。 ルイズの怒り推して知るべし。 「うーん、なんか悪い事したかなあ。思いつかねえ。」 「しまくりよ馬鹿犬!さあ、次の授業が始まるから行くわよ!」 ルイズは鎖の端を掴み、思い切り引っ張った。 「おい、待て、首が…プげッ」 その頃、元ニューカッスル城であるところの瓦礫を踏み締め、片腕のない長身の貴族が戦跡を検分していた。 ワルドである。 「ううむ、この辺りだったと思うのだが……」 その時、何者かがワルドの肩を叩いた。 同時に快活な、澄んだ声がする。 「子爵!ワルド君!ウェールズの遺体は見つかったかね?」 ワルドは首を振って、現れた男に応えた。 その男は、年のころ三十台の半ば。 丸帽子を被り、緑色のローブとマントを身に着けている。 外見は聖職者のようだが、発する雰囲気は軍人や権力者のそれだ。 帽子の裾からはカールした金髪が覗いている。 「この近辺だとは思うのですが、少々お待ちを。 それと、手紙の件本当に申し訳ない、私のミスです。何なりと罰をお与えください」 そう言って頭を垂れたワルドを、男はにかっと笑みを浮かべ制する。 「何を言うか子爵!君は敵軍の勇将を一人で討ち取る、目覚しい働きをしたのだぞ!」 「ですがクロムウェル閣下……」 「正直なところ、手紙の何倍もウェールズの“遺体”のほうが重要なのだよ。だから気にするな」 ワルドは自分の上官がやけに遺体を強調することに少し疑問を感じたが、 とりあえずそれは追いやり感謝の意を示した。 「ありがとうございます、閣下」 「うむ。ところでワルド君、きみが仲間に引き込んだという“土くれ”のフーケ。 いや、ミス・サウスゴータか。彼女はどうしたのかね? 聞けばアルビオン王党派は仇だというではないか。死体検分には来ていないのか?」 ワルドは返答に窮してしまった。 フーケはラ・ロシェールでの戦闘以来、いくつか設定しておいた合流地点にも現れず行方をくらましている。 戦死の可能性がゼロとまではいわないが、かの“土くれ”があの程度で死ぬようなタマとは思えない。 完全に従わせることができなかったと考える方が自然だろう。 「はっはっは、振られたかね。 どうせ用心深いワルド君のことだ、内情までは話してないのだろう? 盗賊の一人や二人どこに行こうと余は気にせぬよ。」 クロムウェルは快活な笑い声をあげた。ワルドの胸がちくりと痛む。 「重ね重ね申し訳ありませぬ閣下……もとい、アルビオン皇帝クロムウェル様」 「今必要なのは“結束”と“権威”だ。まだ両方が足りぬ。 しかし、いずれはハルケギニアを纏め、“聖地”を忌まわしきエルフどもから取り戻してみせる! 始祖ブリミルに余が授かったこの“虚無”をもってしてな! ……さて、ワルド君。ウェールズを捜そうではないか」 そう言うと、クロムウェルは自ら周囲の瓦礫を調べ始めた。 ワルドが慌ててそれに続く。 照りつける太陽の下、辺りには腐臭が漂っている。 それは戦死者の物言わぬ抵抗とも取れた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/118.html
「………………」 知らない天井だ…。 いや、もちろん知ってる。 トリステイン学院の医務室の天井だ。 室内には誰もいない。 窓カーテンの隙間から、淡い月光が射し込んでいた。 自分に降りかかる光が心地よく、ルイズは左手でシャッとカーテンを開けた。 左手………? ルイズはふと違和感を感じ、自分の体を見た。 何ともなかった。 傷が綺麗サッパリ消えていた。 (………ウソ) 2日や3日で治るケガではなかったはずだ。 本当に嘘みたいだった。自分がさっきまで繰り広げていた大召喚劇は夢だったのだろうか。 ---夢……!? ルイズは我が身をバッと抱いた。 そんなはずはない。 あの時感じた痛みは本物だ。 夢であるはずがない。 自分は間違いなく、あのチンチクリンな触手に串刺しにされたのだ。 チクショウ。 サモン・サーヴァントを行ったのがケチのつき始めだ。 ルイズは自分の運のなさにホトホト呆れ果てていた。 あの使い魔のせいで散々だ。 あの使い魔のせいで…………………………………………使い魔!!! ルイズはベッドから跳ね起きた。 全くなんて事。 ケガに夢に使い魔に……今日の自分は大切なことを忘れっぱなしだ。 こうしてはいられないと、ルイズは医務室から飛び出した。 急いで自分の部屋に向かう。 やけに体が軽かった。 全速力で走っているのに、息一つ切れない。 呼吸をする必要すら感じられない気持ちだった。ルイズは自分が生まれ変わったようなすがすがしい気分に包まれていた。どれもこれもあの使い魔のせいだと決めつけながら、ルイズは自室に到着した。 部屋のドアの前でキュルケが、信じられないという顔でルイズを見た。 スゴい、トリステイン最速記録ではないだろうか---バカなことを考えながらルイズはキュルケに聞いた。 「私の使い魔、どこ?」 「え……?ルイズ…?ウソ、だってアンタ…ケガはどうしたのよ!?」 キュルケは面食らった様子で、なかなか会話がつながらない。 ルイズは地面をダンッと踏んで、さっきよりも勢いを付けて聞いた。 「~~ッッそんなことどうだっていいから!私の使い魔、中にいるの!?」 ルイズの剣幕にキュルケは目を白黒させながら答えた。 「え、えぇ、中で寝てるわよ。私とタバサで見張りしてたけど、ここ2日間はビクとも動いてないわ。ちょっと拍子抜けだけど。ちょうど今タバサと交代しようと思ってたんだけど……」 「わかったわ!ありがと!!」 それだけ聞いて、ルイズはドアに手をかけた。 置き去りにされたキュルケは、どういうことよとボヤきつつ、タバサの部屋に歩いていった。 一息でドアを開けたルイズ。 明かりはカーテンから入る月光だけだ。 真っ先に自分のベッドへ視線を向けた。 なにせ契約だけであれだけ手を焼いた使い魔だ。御尊顔の一つでも拝んでやらねば気が済まない。---が、そこには影も形もなかった。 まったく予想外のことに一瞬思考が停止したが、チラと脇に目をやると・隅の壁に、人影がもたれかかっているのがボンヤリ見えた。 上半身こそ裸だったものの、腕を組んでいる様子は夢のソレそのまんまだった。 顔はよく分からない。 ルイズの背中に冷や汗が流れた。 (ウ、ウソツキぃ……!し、しっかり起きてるじゃないの~~!) キュルケを責めてももう遅い。 それに、今のあいつは私の使い魔なんだから、害はないに違いない…………と思いたい。 ルイズは建設的な考えのもと、ルイズは自分の使い魔に話しかけようとした。 「ち、ちょっと、アンタ!そんな所にいないで、ご主人様の前に来なさいよ!」 少し噛んでしまった、情けない--ルイズは思った。 男は何も言わずに腕組みを解いて、優雅な足取りでこちらに向かってきた。 徐々ににその容姿が明らかになる。 あらためて見ると、やはりデカい。 190サントはあろうその身長、自分と並べてみたら大人と子供の差だ。 そのうえ、男が発する威圧感のせいで、ルイズは実際の身長差以上の圧迫感を感じていた。 その顔は、召喚前のスイカ状態とは些か異なる印象を受けた。 真っ赤に光る目が、穏やかで理性的な光を放っている。 男は、自分の2歩手前でピタリと歩みを止めた。 「よ、よろしい。で、アンタの名前は…」 「君…」 そのままの勢いで続けようとしたルイズの言葉はしかし、男によって遮られた。 自分と相手の立場を考えれば、自分のほうが優先のはずなのだが、ルイズは男の声に、逆らえない何かを感じ、言葉に詰まった。 「君が……私を、助けて…くれたんだね?」 アンタにしこたま吸われたからよ、とルイズは思った。 そんな内心とは裏腹に、若干頬を上気させながら答えた。 「え、えぇ、そうよ。私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたのご主人様なんだから。」 ---で、アンタは私の使い魔。と、ピシャリと言う。 男はふむ、と考え込んだようにみえた。 「…………使い魔、といったね。君の言ってることがよく……分からないが、とにかく、私は今どういう状況にあるんだね…?」 使い魔と言われても、少しの不快感も感じさせない男の口調に、ルイズはホッとした。 ふざけるなと言われて、問答無用で襲いかかられたら、万に一つも勝ち目はないのは分かっていた。 それに、どうやらアイツは自分に恩を感じているらしかった。 そして、答えた。 ここがハルケギニアはトリステイン大陸の、トリステイン魔法学院であるということ、自分はその生徒であり、二年生で、春になったらサモン・サーヴァントで各々の使い魔を召喚することになっていたこと。 その召喚で自分が男を召喚したこと。 送り帰すのは不可能であること。 いっきにまくしたてた。 「トリステイン……ハルケギニア…メイジ……」 と、ルイズの言葉を繰り返す男。 ひととおりまとまりがついたのか男は逆に聞いてきた。 「私は今………蘇生したばかりで、弱っている。常人のソレと…ほぼ力はかわらないだろうよ。傷が『馴染む』までには…長い時間を必要とする。だからそれまでの間、いいだろう、君の使い魔とやらになって…やるよ」 ルイズは心のなかでガッツポーズをとった。 「君の執事になる……と、考えればいいのかな?」 男の問いに、ルイズは得意げに指を立てて答えた。 「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ」 「ふむ…」 「でも、無理みたいね。わたし、何も見えないし」 「……」 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、魔法に使う硫黄とか、コケとか…」 「……今の私では、難しいな。」 「そして、これが1番なんだけど、使い魔は主人をその能力で敵から守るのよ」 「ふむふむ……」 「でも、専らは、そうね、あなたの考えで間違いはないわ。洗濯、掃除、その他雑用」 「………」 「ところで、アンタの名前、なんて言うの?」 「……………DIO、だ」 「ふ~~ん。ディオっていうのね」 男はチッチッチッと舌を鳴らしながら指を振った。 「それは少し意味が違う。我が『マスター』。ディー・アイ・オーで、DIOだ」 なにやらこだわりがあるらしい。 どう違うのよ、とルイズは思ったが、彼がDIOと名乗るからにはDIOなのだろうと、ルイズは思った。 「さてと、しゃべったら、眠くなっちやったわ」 ルイズはあくびをした。いろいろあって、まだ疲れていた。 そうしてブラウスのボタンを外そうとした。 ---が 「……………」 「……………」 視線が絡む。 男は変わらずこちらに視線を向けたままだ。 視姦されているような気分になり、ルイズはボタンから手を離し、真っ赤になって言った。 「き、着替えるんだから 、あっち向いててくれないかしら?」 男は無言で背を向け、イスに座った。 「ちょっと、なにご主人様のイスに座ってるのよ!?あんたは寝るなら床よ、床!」 「…………」 男はルイズを華麗に無視した。 無視されたルイズは、着替えるのも忘れてDIOにつめかけた。 「ご主人様の言うことが、聞けないの?」 「……………」 またもや無視されて、ルイズは堪忍袋の緒が切れた。 「~~~ッッ言うことを、聞きなさぁぁあああい!」 次の瞬間、ルイズの魔力が根こそぎ奪われ、DIOに流れていった。 「……ふぇ………きゅう~」 なすすべ無く、ルイズはポテンと床に倒れた。 一方で、DIOの左手の甲がまばゆいばかりの光を放った。 『KUAAAAAAAA!!』 左手に焼けるような激痛を感じ、突如苦しみだしたDIOは、同じく意識を失って床に崩れ落ちた。 ----結局この日、ルイズは自分の使い魔と仲良く床で一夜を過ごすこととなった。 to be continued…… 16へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1171.html
「…………」 「…………」 学院長室にて、オスマン氏とコルベールが遠見の鏡を呆然としながら眺めている。 「…………」 「………み、ミスタ・ココペリ」 「…………」 「…ミスタ・コエムシ、聞いとるのかね?」 再度オスマン氏がコルベールに呼びかけるが、まったく反応が無い。 「……おい、毛根全滅男」 「誰の毛根が全滅しているんですか!まだサイドは生き残ってます!」 「もういっその事、そっちも剃った方がすっきりするような気もするが…」 「私は諦めません!諦めは何も生まないという事を、私は知っています!」 「まあ、それは良いとして。見たの?」 「ええ見ましたとも!彼は…彼はやはり『ガンダールヴ』なんでしょうか?」 「どうじゃろうな…」 オスマン氏が口髭をいじりながら答える。 「それにしては……『ガンダールヴ』は始祖ブリミルが、呪文詠唱中の 無防備な状態を守るために用いたと言われておる」 「はい…姿形は記述がありませんが、その力は千人の軍隊を一人で壊滅させ、 並みのメイジではまったく歯が立たなかったと!」 「そして伝承にはこうもある。 『ガンダールヴ』はあらゆる『武器』を使いこなし、敵と対峙したと…」 「はい」 「『武器』……使っとらんかったの」 「あっ!」 「というか、あれで『武器』なんかいるのかのう?」 「そ、そうですね………」 感じる!今どこかで、俺の存在意義が否定された! このデルフリンガー様の存在意義が…ッ! 「ま、それはそうとして…彼は本当にただの平民だったんじゃな?」 「はい、どこからどう見ても。念のためにディティクト・マジックで確かめたのですが 反応は無く、正真正銘ただの平民の少年でした」 その言葉を聞いて、オスマン氏は頷く。 「うむ、ではあの少年はどうやってあの姿になったんじゃ? 魔法も使わず、どうやってゴーレムを溶かしたのじゃ?あの雷は? そして…あのグラモンの息子をどうやって治したと言うんじゃ?」 「それはその…先住魔法でしょうか?」 口ごもりながらコルベールが答える。 「では何故君のディティクトマジックに反応がなかったのかのう? 先住魔法も魔法の力、まったく反応がないという事は無かろう」 「………わ、わかりません」 その言葉にため息をつくオスマン氏。 「うむ、ではあの少年を召喚した生徒は誰なんじゃ?優秀なメイジなのかね?」 「いえ、召喚したのはミス・ヴァリエールで…真面目な生徒ですが、メイジとしては…」 「謎がまた一つというわけじゃ…」 「と、とにかく彼が『ガンダールヴ』であろうと無かろうと、これは一大事件です! 王室に報告して、指示を仰がない事には」 「それはならん!」 オスマン氏が厳しい声でコルベールの提案を否定する。 「し、しかし…」 「ミスタ・コルベール!宮廷で暇をもてあましとる連中に、あの少年とその主人を 引き渡したらどうなると思う!?」 ハッとなってオスマン氏を見るコルベール。 「彼奴らはあの『力』を手に入れようと躍起になるじゃろう! 二人の命を彼奴らが考慮に入れると思うかね?…君ならわからんでもあるまい」 「………はい」 オスマン氏の言葉にコルベールは過去を思い出していた。 かって自分が隊長を務めていた、魔法研究所実験小隊での最後の任務を。 ダングルテールで自分が犯した、消す事のできない罪の記憶を… 「ありがとうございます、オールド・オスマン。私は危うくまた…」 「よいよい……… 言っても無駄じゃと思うが、あまり自分を責めてはいかんぞ。 君は上から命令に従っただけじゃ、悪いのは、腐った宮廷の連中じゃよ」 「すいません、学院長…」 重苦しい空気が流れる中、オスマン氏が口を開く。 「とにかく、このまま放っておくわけにいかんじゃろう。 まずはあの少年から直接話を聞かねばな」 「では私が彼を連れてきます!」 「いや、その必要は無い」 外に飛び出そうとするコルベールを、オスマン氏が引き止める。 「おー、相棒。災難だったな…」 呆然とするルイズの手から放たれたデルフリンガーの声に、育郎がルイズたちに気付く。 「デルフ!それにルイズも…」 「ひでーぜ相棒!俺を放っておくなんて。 なんか俺いらねー子になったんじゃねーかって、不安で不安で仕方が無かったぞ」 そう言いながらも、どこかデルフの声は嬉しそうだった。 「すまない、デルフ…」 「わ、わかってくれればいーんだよ。というか、これからどうすんだ相棒」 「…………」 その言葉に、途端に押し黙る育郎。 このままではルイズに迷惑をかけてしまうかも知れない… 姿を消そう!誰にも会わず、誰にも見られず……… 「相棒…行くんなら俺もついてくよ」 「デルフ…」 「おっと、気にする必要はねーぜ。俺は剣で、相棒だからな。 それに俺がいたほうが便利だって。だからさ、置いてかねーでくれよ…」 「さっきから何を言ってんのよ…置いてくって?」 それまで黙っていたルイズが、そのやり取りに不安を感じて会話に割り込む。 「ルイズ…すまない」 「な…何謝ってるの?その、あの事を黙ってたのは許してあげるから…」 そんな事を言っているのではないとわかっている。彼らが何を考えているのかは、 鈍いルイズでもうっすらとは分かってはいたが、それを口にするのは嫌だった。 「娘っ子…短い付き合いだったな」 「ごめんね、使い魔になるって約束したのに」 「ちょ、ちょっと待ってよ!」 育郎は、ルイズの手からデルフリンガーを受け取ろうとするが、ルイズはデルフを 離そうとしない。 「な、何なのよあんた!?あんな格好になれると思ったら、今度は…」 それを言うのは嫌だったが、口にしなければならない。 「どっか行っちゃうつもりだなんて!どういうつもりのなのよ!?」 「そう言うなよ、相棒も娘っ子の約束を破る事になってつれーんだ」 「だったらなんで!?」 「あのな、娘っ子。黙ってたのも、これから行くのもな…… みーんな娘っ子を心配しての事なんだよ。だからあんまり相棒をこまらせんな」 「………え?」 今のルイズには予想だにしなかった言葉だった。一瞬体から力が抜け、その隙に育郎は ルイズの手からデルフを奪い取る。 「さよならルイズ…」 立ち去ろうとする育郎を、ルイズはなんとか止めようとしがみついた。 「だ、だからちょっと待ちなさいって!」 「そうです、ちょっと待ってください!」 まだ呆然としている生徒達の中から、誰かが二人に声をかけた。 「貴方は、ロングビルさん!?」 しかして、群集を掻き分け現れたのは、オールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビル その人だった。 「イクロー君。学院長がお呼びです、いっしょについて来てもらえますね?」 ここから去るのは、学院長の話を聞いてからでも遅くないですよ。 どこか…頼れるところがあるわけじゃないでしょ?」 「ですが…」 渋る育郎に、ミス・ロングビルは育郎の手をとり続ける。 「無理やりにでもついて来てもらいますからね。それが私の『仕事』なんですから。 来てもらわないと、私が叱られちゃいます…だから、ね? イクロー君は私が叱られても良いなんて、冷たい事は言いませんよね?」 そう言って、少し悪戯っぽく微笑む。その顔に、さすがに育郎の表情も少し弛む。 「わかりましたロングビルさん」 「それじゃあ」 ミス・ロングビルの後について歩き出す育郎。 「って相棒、娘っ子はいいのか?」 「……ハッ!ちょ、ちょっと私も行くから待ちなさい!」 デルフリンガーの言葉に状況について行けなかったルイズが、二人の後を追いかける。 「ていうか何でミス・ロングビルと知り合いなの!?なんか仲良さそうだし!?」 なんだか良く分からないが、腹が立ってくるルイズであった。 「まさかこのような事態を見越して、ミス・ロングビルに使い魔をつけているとは… 学院長の深謀には恐れ入ります」 コルベールの賞賛の言葉に、ばつが悪そうにオスマン氏が首を振る。 「いや、二人の仲人を勤めるかもしれんのーとか思っての…ほら…なりそめとか… それに盛り上がりようによっては、今日にでもおっぱじめるかなーとか、若いし」 「…………」 「……はっ!」 ルイズが去った後、決闘の観客の一人だったキュルケがようやく自分を取り戻す。 「た、タバサ、彼って一体…」 隣にいる親友、いつも本を読んでいて、大抵の事は知っている青髪の少女に話しかける。 「………」 しかしタバサからの返事は無かった。 「…タバサ?」 そしてキュルケは気付いた。 「た、立ったまま気絶している………ッ!?」 悪 魔 降 臨 !! 変身する育郎を見て、そんな風な言葉を連想したとかなんとか。 なんかこう、生っぽい変身は反則とか、心の準備が欲しかったとか。